17th ヘタッピストーカー

「気をつけ、礼」


 ありがとうございましたー。


 ホームルームが終わった。さあ、尾行作戦の始まりだ。


 作戦の概要はこうだ。まず、相言さんは彼女さんがまっすぐ家に帰るかどうかを尾行して確認する。オレと夏来は予め彼女さんの家の近くに待機しておき、彼女さんが行動を始めると同時に後をつける。最終的な目標は、決定的な証拠が出たときに写真を撮ること。証拠もないのに突撃するのだけはダメだ。


 ――というか、相言さんの彼女さんの名前ってなんだっけ……?まあ、いっか。


 オレたちは急いで学校を出て駅へと向かう。オレたちは先回りが絶対条件。少しでも早く到着しておきたい。


◇ ◇ ◇


 オレたちはいつもの時間よりも早い快速列車に飛び乗った。ここまでかなりの全力ダッシュをしたせいで息が途切れ途切れだ。


「いやぁ……はぁ……辛いですね……!はぁ……」


 夏来はオレ以上に息を切らしている。少し無理をさせてしまったかな……?


「夏来、大丈夫か?」


「え、ええ!もちろんですとも!」


 夏来は滴る汗を拭きながら空元気で答える。彼女の顔からは明らかに疲労が見える。


「大丈夫ですよ!!」


 夏来は何度も主張するが、息切れはなかなか治らなかった。結局、息切れは目的の駅に着く直前になるまで続いた。


◇ ◇ ◇


 慣れない駅に降り立つと、オレたちは人の流れに押しつぶされるようにエスカレーターに乗らされた。ゆうラッシュ本番では無いと思うが、かなりの混雑だ。


 指示された場所まではだいたい一キロメートル。徒歩換算で二十分くらいだろうか。オレたちはスマホの地図を見ながら歩き始める。いやぁ、スマホの地図というのはとても便利だな。経路検索をすれば簡単にたどり着けてしまう。これなら迷うこともないだろう――。


 ――迷った。確かに、経路が分かれば迷わずに済むだろう。しかし、分からない。何も分からない。現在地を示すマークが変なところにいる。明らかにオレたちがいる場所とは違う。挙動もおかしい。つまり、オレたちは経路どころか、自分がどこにいるのかもイマイチ分からなくなってしまったのだ。


「ど、どうしましょう!」


「とりあえず再起動しなくちゃ……」


 オレは急いでアプリを閉じ、また起動しようとする。しかし、そのタイミングで一つのメッセージが届く。相言さんからだ。


『まっすぐ帰るっぽい』

『あと十分くらいで駅着く』


 ――まずい。非常にまずい。早く向かわなければ。オレは急いで地図アプリを開き、また同じ住所への経路を検索する。オレたちは指示の通りに動くが、なぜか路地裏のような狭い道に入ったり、歩行者が入っていいのか分からない道を進みながらようやく目的地に到着した。


 表札には友井の文字――。そうか、友井かぁ。友井……銀河?ん?銀河?ギャラクシー?いやいや、そんな、ね?


「葛さん!何をしてるんですか!早く隠れてくださいよ!」


「あ、ああ。ごめんな」


 オレたちはすぐ近くにある塀の裏にしゃがみながら隠れた。


「いやぁ、それにしても後をつけるだなんて探偵みたいですねー!」


「――高校生探偵って言えば聞こえはいいんだけどな」


 しばらく待っていると、前から二年生用の制服を着たギャルが歩いてくる。パーマをかけた金髪ツインテール……


「やっぱり!」


「ちょ、ちょっと葛さん声が大きいですよ!というか『やっぱり』ってなんですか……?あの人をご存じなんですか?」


「あー、いや、あの人と糸振さんが一緒に過ごしてるのを見たんだよ」


「ほえー、糸振さんと?ならヒモ作りの達人かもしれませんね」


「パパ活やってんだからむしろ逆だろ」


「そ、それもそうですね……」


 一緒に過ごしているのを見た、というか二人で話しかけて来たんだよな……やっぱり似た者同士は惹かれあってしまうのだろうか。払う、貰うという矢印の方向は真逆だけどな。というか、糸振さんと銀河さん……?だっけ。この二人の見た目は全然違う。


 銀河さんはめちゃくちゃギャル!って感じだが、糸振さんは大人びた黒髪のお姉さんって感じだ。見た目だけで見ればかなり不釣り合いだ。


 銀河さんはオレたちに気づく素振りも無く家の中に入っていった。すると、すぐ後ろから相言さんがダッシュで現れる。


「おーい!二人ともー!」


 すごく目立ちそうな行動をしているが、大丈夫なのだろうか?


「はぁー!良かった。合流出来て」


「そ、そうですね」


「とりあえず待機だな」


 ――オレたち三人はなぜか何もせず待機することになった。


「いやいや!この後の予定聞くとかないんですか!?」


「――あ、そうだな……」


 相言さんはスマホを開き、急いでチャットを送る。


『ねぇ、この後予定ある?』


 すぐに返信が届く。


『ん?どこか行くの?』


相言さんはまたすぐに返信する。


『いや、別に何かあるわけじゃないんだけど』


『ふーん』


 これ以上の返信は来なかった。そして、いつ間にか時間はどんどん過ぎていき、気がつけば三十分が経過していた。


「疲れました……」


 夏来が嘆く。オレたちは椅子がある訳でもない変な道の端っこでずっと屈んで過ごしている。疲れないわけが無い。


「――もう今日は出てこないんじゃないですか?昨日色々疑っちゃったんですよね?」


 オレは単純な疑問をぶつける。しかし、相言さんは「いや!」と否定語を言い放った。


「まだ待とう!」


 ――根拠なんて何も無いだろう。願望だけを信用して動いている。こういうのは本当に良くない。


◇ ◇ ◇


「もういいでしょう?流石にもう無理では無いですかー?」


 一時間も経過してしまうと、提案者の夏来すら諦めムードを漂わせる。そんなとき、遂に家の扉が開いた。


 そこには、化粧や服といった完全武装を身につけた銀河さんがいた。良かった!完全にムダにはならなかったか!オレは慌てて音の出ないカメラで銀河さんを撮った。


「後をつけよう!」


 オレたちは極力バレないように尾行を始めるのだった。


◇ ◇ ◇


 二十分間歩き、さらに電車に乗って着いた場所は……繁華街のある大きな駅だった。最大限のオシャレと、色々な店の立ち並ぶ繁華街――。さて、完全体の銀河はどんな行動をするのだろうか?

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