13th ホウカゴトーキン
相言さんとの会話の後、彼と連絡先を交換したオレは何事もなく放課後を迎えていた。
「なぁ、夏来。お前、パパ活ってどう思う?」
少しずつ傾きはじめた陽の光を浴びながら歩く帰り道。オレは横に並んだ夏来になんとなく質問する。
「パパ活……ですか?そうですねぇ、お金だけの繋がりというのが少しイヤな感じですね。お金が欲しいのなら真正面からぶつかって行くべきだと思います!」
へぇ、夏来は否定派なのか。ここまでの言動を見るにそういう関係も認めてるタイプだと思ったんだけど。
「それにですよ?ネットで知り合った人に体を売るだなんて怖くて出来ませんよ!」
「ある程度関係を作るのが大事って考え方なのか。お前は関係性がない初対面の時に『殴ってください!』だなんて言ってたけどな」
「私だって、初対面の人にいきなり殴られたら『何この人!』ってなりますよ!でも、あの時ビビっと来たんです。『この人に殴られたいな』って!だから声をかけたんですよ?嫌いな人には殴られたくありませんし」
……そうか。こいつはオレの事が――いや、オレというよりは……夏来の思い描く理想の「裏見葛」の事が好きなのだろう。
でも、ソイツはこの世のどこにも居ない。自然現象的に生まれるものでもない。作らなければならないんだ。
オレは
――いやいや、そんな話をしたいのでは無い。オレのことなんざどうでもいいのだ。オレが考えたいのはパパ活の話。相言さんの彼女をどう救うか、そういう有意義な話だ。
「話を戻すけど、夏来はパパ活否定派なんだよな?」
「そうですね……葛さんをDV男にするために使える可能性がある以上、全面的に否定することは出来ませんが、この行為のあり方は好ましくないですね。というか、なぜそんなことを聞くんですか?まさか、葛さんそういう関係を作りたいのですか!?」
「そんなわけないだろ。第一、そんなことしたらお前らが求めるクズ男にどんどん近づいちまうじゃねぇか」
方向性はそれぞれ違うものの、夏来も篦河も糸振さんも目的は同じ。「裏見葛をクズにする」ことだ。パパになんてなってしまえばクズ人間まっしぐらだ。
「葛さんがやるわけでないということは……どういうことなのでしょうか?」
「今日会った先輩の彼女がパパ活してるかもって話なんだよ。その先輩はそれを止めさせたいらしい」
「なるほど。でも、彼氏さんなら彼女のそういうことも受け入れてあげるべきなのでは?」
「いやいや、高校生のパパ活ってのは犯罪にも繋がりかねないんだぞ?彼女が犯罪者になるのは普通イヤだろ。仮に、オレとお前が付き合った時にオレが捕まったらイヤだろ?」
暴行などの個人間での了解があれば成立しない犯罪とは違い、児童売春や薬物はやること、所持すること自体が犯罪なのだ。
「もし付き合ったら毎日殴ってもらいますよ?」
「――いつか捕まりそうだから付き合うのは絶対にやめとくわ」
考えたくもないが、もしもコイツとの仲が完全に決裂したら訴えられて負けそうだ。間違っても殴らないようにしないといけない。
◆ ◆ ◆
午後四時五十六分。役炎相言は彼女のパパ活の真相を突き止めるため、やんわりとチャットを送る。
『ぎんが、この後予定ある?』
数秒後、早くも既読が付き返信が飛ぶ。
『あるよ』
相言はドキリとする。本当にあるのか。疑念がドンドンと深まってしまう。しばらく返信に困っていると、銀河からもう一度チャットが届く。
『なぜに?』
相言はこの質問に対する回答に迷いが生まれる。『ある』と答えられた時の対処法を考えていなかったからだ。ここはひとつハッタリを打ってみることにしよう。
『ディナーでもどうかなって』
『マ?』
書かなくても分かるかもしれないが、「マ」というのはマジ?の略称である。
『どこ連れてってくれる?』
マズい。まさか乗り気で来るとは。もちろんハッタリなので何も考えていない。
『イタリアンでもどうかなって』
思わず指が動いてしまった。相言は良いイタリアンレストランなど知らない。連れていくお金もない。
断ってくれ……あ、いや、パパ活もしないでくれ……
そんなワガママが頭の中に錯綜する。
『イタリアン?』
『まさかファミレス?』
どう答えよう。『違うよ』なんて言えない。そんなことを言ってしまったら高額を払わなければならなくなる。ここは濁しておくか?いや、断らせるためにも正直に言おう。
『バレてるとは……』
これでよし。あくまでしょうもないギャグとして片付けておけばなんとかなるだろう。
『いくわ』
『何時?』
――まさかの回答だった。何故だ?イタリアンとはいえファミリーレストランだぞ?パパ活をキャンセルしてまで行くものなのか?
もちろん、これには理由がある。銀河は確かにパパ活の予定があった。しかし、誰と会うかまでは全く決めていなかった。テキトーにSNSで大人を釣ろうと思っていたところに、彼氏である相言からのメッセージ。おじさんと高級ディナーを食べるのに飽き飽きしていた銀河にとって、この誘いは凄くちょうど良かった。
世代が違うおじさんと話すよりも流行りを知っている同級生と話す方が楽しいのは明らか。お金の関係を抜きにすればこちらを取りたくなるだろう。銀河はニヤニヤと笑みを浮かべながら身支度を始めるのだった。
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