ネコと僕

さーちぃ

1話:出会い

いつもと変わらない、普通の夕方。時折風が吹いてきて、少し長くなった前髪をずらす。

「はぁ…」

くせのようにため息をつき、僕は前髪を戻す。朝のテレビでは『秋晴れ』だとか『さわやか』とか言っていたけど、そんなことはあまり感じない。

今、僕が感じているのは、カバンが中の教科書やらノートやらのせいで重たいことに対する疲れと、何一つ刺激のない毎日への退屈だ。

「にゃ~」

ネコの鳴き声。ふと前に目をやると、毛づくろいをしていた。足が止まる。たまに見るようなその光景に、僕はなぜか見入ってしまう。

ネコが僕に気付く。少し近付き過ぎてしまったようだった。ネコは走って逃げだした。

僕は、そのネコを追いかけた。何故かはわからない。そうすることで、なにか面白い体験ができると踏んだのかもしれない。それとも、そのネコとの出会いがなにか運命的なものだったのかもしれない。

わからないまま、追いかけた。

ある時に、ネコを見失った。住宅街に入ったからしょうがないのかもしれない。というか、それが普通なのだろう。

でも、僕はそこで、喪失感に襲われた。

例えるのなら、それは、大切なものを失くしたことに気付いた時のような。

「あれ…?」

四方八方を見回す。ネコは見当たらない。

でも、ひとつ、目に入ったものがあった。

…坂の上から差し込んでくる、夕日だった。

いつもなら眩しいだけと流していた夕日が、とても輝いて見えた。オレンジというか、むしろ子供が描く絵に出てくるような、赤々とした夕日だった。

あまりの眩しさに、僕は思わず目を細めた。そして、ネコに感謝をした。ネコには伝わらないかもしれない。

理解できても、関係ないとあしらってくるかもしれない。でも、なんとなくその気持ちを伝えたかった。

「にゃ~」

後ろから鳴き声。そこにはあのネコがいた。僕をからかいに来たのかと思ってしまうような顔で、こっちを見ている。

「なんだよ。僕を笑いに来たのかよ」

苦笑いしながら、伝わるはずはないのにネコに問いかける。

「よかっただろ」

そう返されたような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る