第26話 …………え
その日の夜。
部屋の電気を消してベッドに寝転がると、
「ふわぁ……」
これで、何度目の欠伸がこぼしただろう。
今日は歩き疲れたこともあってか、さっきから欠伸が止まらない。
明日は日曜日。正直、夜更かししたい気持ちもあるのだけど。どうやら、眠気には勝てないらしい。
ピロリンッ。
枕元のスマホを手探りで取ると、画面を点けた。
(んん……?
送られてきたのは、なんと……
『夜のお供にどうぞっ♥』
彼女の下着姿の写真だった!? えぇ……っ!?
バランスの整った丸みと、引き締まりつついい感じの柔らかさがあるお腹。
写真に写っている部分だけでも、それは十分刺激的で……。
「…………っ」
目元が映っていないところが、なんとも……エロい。
(一瞬にして眠気が吹っ飛んだぞ……?)
向こうには、既に"既読"が付いてしまっているため、なにか返事をしなければいけないのだけど。
な……なんて返せばいいんだ……っ。
シンプルに『よかったよ!』とか?
ブゥウウウーッ。
「!!? も、もしもし……っ?」
『あっ、せんぱい。今送った写真、見てくれましたか?』
「見た……けど……」
見た! 見たよ! それはもう、ばっちり!
『ふふっ。デートに誘ってくれたお礼です♡ また一緒に行きましょうねっ』
と続けて、
『今度は、“二人っきり”で♥』
あ……。
『き、気をつけます……』
今日のことに関しては、もう反省だ……。
『まあ、あれはあれで楽しかったので、今回だけは許しますけど……っ』
凛々葉ちゃん……。
ああぁ~……なんて優しい子なんだああぁ~……。
『今度はわたしがせんぱいをデートにお誘いしますっ』
『うんっ。楽しみにしているよ!』
それから、いつものように何気ない会話を楽しんでいると、
『ふわぁ〜……っ』
電話の向こうから可愛らしい欠伸が聞こえた。
『んん〜……っ。なんだか、眠たくなってきちゃいました……っ』
時刻は、深夜の二時。
そういえば、話すのに夢中になっていたから、すっかり時間を忘れていた。
『せんぱい……っ、わたしそろそろ寝ますね……っ』
『じゃあ、俺もそろそろ寝よっかな』
とっくに眠気は覚めているけど。眠たそうな彼女を無理に起こしておくわけにはいかない。
『おやすみ、凛々葉ちゃん』
『おやすみなさいっ……』
通話を終えると、スマホを持った手をお腹の上に乗せた。
凛々葉ちゃんも眠たかったんだな。
まあ、あれだけ歩けば眠たくなるのもわかる。
………………。
寝る前に……と、とりあえず、保存だけでも……。
俺は、躊躇いがありつつも写真の保存ボタンを押した。
だって、"彼女"が送ってきたのだから、なにも問題は……ない、よな?
ちなみに、この日はぐっすり眠れたのだった……。
その頃――。
「………………………………………………………………………………」
つぐみは、いつものようにベッドの上で本を読んでいた。
しかし、今回もただ眺めているだけで、全く内容が頭に入ってこない。
(あれは……)
つぐみが頭に浮かべたのは、昼食を挟んで訪れたペットショップでのことだ――。
数時間前――。
気分が少し回復してから、未希人たちと一階にペットショップへとやってきた。
未希人が、動物を見て癒されたら気分がよくなるかもしれないと考えてくれたのだ。
ブルブルブル……ッ。
「……凛々葉ちゃん、大丈夫?」
「あははは……だ、大丈夫です……。わ、わぁ~……可愛いワンちゃんですね…――」
ワァンッ!
「ひぃぃぃ……っ!?」
「……大丈夫には見えないんだけど」
「じ、実は……動物がちょっと苦手で……」
「やっぱり……」
「小さい頃に、犬に吠えられたり……猫に引っ掻かれたり……」
「あぁ……」
子供のときの苦手意識って、なかなか治らないからなぁ……。
ワァンッ!
「ひぃぃぃ……っ!?」
凛々葉は、吠えた犬にびっくりして慌てて未希人の後ろに隠れた。
「ほ、吠えましたよ……っ! 今、吠えましたよ……っ!」
「そ、そうだね……」
チワワの鳴き声に怯える人、初めて見たかも……。
「……外に出てよっか。次は凛々葉ちゃんの顔色が悪くなっているし……」
「で、でも……。すみません……」
「あははは……。えっと、つぐみは…――」
「私は、もう少しだけ見ています」
「わかった。じゃあ、外のベンチに座っているから」
「……はい」
凛々葉に寄り添って外に向かう未希人の背中を見送ってから、つぐみは顔を前に戻した。
「………………」
みゃあー。
(……可愛い)
実は猫好きのつぐみにとって、ペットショップを選んだのは大正解だった。
先輩に、自分が猫好きだと教えた記憶はない……。
(……フッ)
忘れていた。あの人が、昔から思いやりのある人だということを……。
「先輩……」
みゃあああー。
「……猫ちゃんも、一人ぼっち?」
みゃあー。
「……そっか」
つぶらな瞳が、じっと私を見つめている。
………………。
それから、つぐみがじーっと子猫を見つめ返していると、
「えぇーっ!? それマジ~っ!?」
「マジマジっ! チョー最悪なんですけど〜っ!」
(? 今の声は……)
顔を向けると、そこには二人の女子の姿があった。
あれは……確か、同じクラスの……えっと……マジマジうるさい人たち?
なかなか思い出せないのも無理もない。
彼女たちは、つぐみが一番毛嫌いするタイプの人たちだったから。
(動物たちが集まる場所で、大声を上げるなんて……)
みゃああー……。
「あ」
今の大きな声にびっくりして、子猫が隠れてしまった。
「猫ちゃん……」
つぐみは一瞬だけ鋭い眼光を二人に向けると、出口の方に体を向けた。
見ていることに気づかれる前に、二人の元に戻るとしよう。
癒されるはずが、ストレスを溜める形でこの場から立ち去ろうとしたとき、
「あの女がいたせいで気分台無しーーーっ!」
「ほんと目障りよねぇ~。――――――
出口に向かっていた足が…………止まった。
「…………え」
~~~~~第四章へと続く~~~~~
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