第17話
がさっと音がして、また黒鵜が姿を現した。
「素人の船に乗るのは危険です。この島から去るのであればエミ様の船に移動願います」
「エミの船? 素敵ね。でもとりあえず港に行ってみるわ。あなたも何の任務か知らないけど、今はこちらの人間なんでしょう? 天真様に逃亡者を報告しなくていいの?」
とミサキが言うと、黒鵜は黙った。
「ふふ、あの姉妹もどうせ逃がすつもりはないんでしょう? 半漁人の嫁にするの? それとも半漁人達の食料? 聞いたわよ。人喰いなんですってね」
黒鵜ははぁと大きく息をした。
「天真が島民に配った栄養剤という名の向精神薬は幻覚をや幻聴、多幸感などの症状が出ている、いわば麻薬です。天真は島民を支配下に置くために、薬剤を使っており民の大多数がこれにどっぷりとはまっている状態です。宗教を結びつけ島民を従順な奴隷にする為に薬漬けにし、神の教えとして人喰いも推奨しています」
「何故?」
とミサキは聞いたが、その問いに黒鵜は答えなかった。
「これ以上は私の口からは言えません。エミ様にお尋ねください」
「分かったわ。ま、とりあえず港に行ってみる」
ミサキはそう言って肌身放さず持っているリュックの中身を確かめた。
「危険です。おやめ下さい。すでに迎えのボートがこの下にきておりますから」
と黒鵜はミサキの肩を引き留めようとした。
ぱしっと黒鵜の手がミサキに振り払われた。
手のひらにうっすら傷がつき、赤い液体が徐々に染みだしてきた。
「触らないで」
と言ったミサキの手にはサバイバル用に使う大型のナイフが握られていた。
「ミサキ様、この島の人間は天真の言うことは何でもやりますよ。大勢であなたを捕まえて裸にされても、その時にちょうどお助けできるか分かりません。私には私の任務ありますから。この島には女人が少ない。あなたのような若い女は格好の餌食ですよ。薬剤のせいで女を見ただけで興奮するような男ばかりなんですよ。大勢の頭のおかしい男達があなたを犯すでしょう」
「助けなんかいらないわ」
ミサキの顔にうっすらと微笑みが浮かんだ。
「ミサキ様、そんなナイフ一つで、一体何が」
「ねえ、私の弟妹の話が本当でも嘘でもどうでもいいわ。織田財閥も組織とやらの話も興味ないしエミにもレンにも興味ない。あたしの邪魔をせずにあなたはあなたの任務を全うすればいいのよ。エミにもそう伝えてちょうだい」
とミサキが言った。
そしてミサキは黒鵜に背を向けて軽快な足取りで斜面を駆け下りて行った。
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