挨拶

水妃

第1話 挨拶

雪解けと共に僕は両親の仕事の関係で海外に移住する事になった。

外国の小学校では、言葉が通じなくて大変な毎日を過ごした。


一緒に遊ぶ友達もいなくて、

いつも僕は独りぼっちで淋しかった。


 ある日、僕は勇気を振り絞って自分から挨拶しようと思った。

理由は古い本に挨拶は自分からしようと書いてあったからだ。


でも、実際に挨拶しようとすると、

緊張して、緊張して自分から挨拶が出来なかった。


一日、一日があっという間に過ぎ去って

僕は独りぼっちから、なかなか抜け出す事が出来ずにいた。


正直、学校に行きたくなかった。


学校に行くのがこわかった。


次の日の事を考えると眠れない夜もたくさんあった。


僕は日本人だからみんなと見た目が違う。

肌の色も、瞳の色も、髪の毛の色も違う。

それが理由なのか、みんなの視線が何か冷たく感じた。


そんな僕を見かねてか、ある綺麗な夕暮れの放課後に

同じクラスのライアンとサラが僕に挨拶をしてくれた。

満面の笑みで挨拶してくれた。

僕も一生でこれ以上ないくらいの笑顔で挨拶をした。

何だか僕の存在を認めてくれた気がしてとても嬉しくて、

ここに僕はいるって認められた気がして。


—僕はここにいるよ—


—君はそこにいるって僕はきちんと分かっているよ—

って。


その日を境に発音とか少し違うかも知れないけれど、

とにかく自分の気持ちを伝えるためにたくさん、たくさん話した。


もっとライアンとサラと話したくて、

日本の文化や好きなアニメの事や好きな食べ物の事を伝えたくて。


 僕はこの学校でたった一人の日本人だけど、

そもそも僕らは同じ地球に住む地球人なんだ。

ライアンもサラも同じ地球人なんだ。

国籍は違っても、見た目が違っても、同じ血の通った人間なんだ。


壁を作っていたのは自分だった。


 挨拶って本当に不思議だと思う。


気持ち良くなるし、元気になれるし、場が和むし。

彼らから僕は学んで自分から挨拶をするようになれた。


「おはよう!元気?」


「こんにちは!お昼ご飯何食べた?」



「こんばんは!雪が凄い降っているから滑らないように気を付けてね。」


短い言葉だけど、あなたのことを大切に思っているという事を伝えることが出来る。

挨拶の挨は「愛」も含まれているのでは無いか?

なんてふと思ったりした事もあった。


 時は経ち、僕は日本に戻った今もあの日の事を忘れた事は無い。

あの綺麗な夕暮れの放課後の事を。


僕の横には、今サラと可愛い息子がいる。


挨拶から始まる優しさや平和、

そして、愛を今日も心から感じているんだ。


日々、忙しい毎日を過ごしていると、忘れがちな挨拶の大切さだけれど、

これは忘れてはいけない。


人は、世界は、一つの挨拶から繋がる事が出来るのだから。

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挨拶 水妃 @mizuki999

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