第31話 魔物の侵入経路

 風が変わった。


 美しい黒髪がゆっくり靡く。


 冬と春が長いポリンピアでは、意識をしない限りは夏から秋に変わる瞬間をしみじみ感じることはないものの季節が変化し始めているのを感じる。


 松明がぼんやり光、わたしの行く先を照らしてくれる。


 発色の良いアイシャドウの粉末を塗りこんである松明の明かりは、行きたい場所へと導いてくれる。


 魔物たちが現れるならどのあたりからだろう。


 わたしの魔力が一日保つものであればあちらこちらに罠を仕掛けておきたいものだけど、魔力は使用した日の24時までしか有効ではないため、効果はすぐになくなってしまう。


 かといって毎日街の隅々を見張っているのは不可能だ。


 今日も実りにならない思考を巡らせ、ゆっくり歩く。


 王家にはたくさんの術師がいると聞いたことがある。


 術師の方々なら簡単に結界が張れるだろうのに。


 何もできない自分が歯痒かった。 


「ぐっ……」


 突然、左肩に激痛が走った。


 松明に灯った明かりがチラチラと消えかかる。


(そ、そんな……)


 いつもより力を使ったつもりはなかったのに、かなり消耗したときと同様の症状を見せ、肩から指先にかけてガタガタ震え始めていた。


 今日は穏やかな夜だった。


 魔物も出そうになかったし、対策を練るには絶好のタイミングなのに。


 唇を噛み、わたしは松明をぐっと握る。


 家に帰るまでの力をください。


 心のなかで幾度となくそう願い続けた。

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