第13話 ポリンピアの魔術師

「アイリーン、眉間! 眉間!」


 三番目の姉、クロエ姉さんが心配そうにわたしを覗き込んでいた。


「ね、姉さん!」


 メイクで隠しているものの、くまがくっきり残っている姉の姿に、心ここにあらずの状態だった自身を恥じる。


「ご、ごめんなさい……」


「大丈夫?」


 大丈夫!と即答しかけるけど、姉さんの問いかけは今のわたしのことではないことをなんとなく悟り、素直に首を横にふる。


「舞姫なんて、自信がない」


 午後からもたくさんの人たちがお店を訪れ、そのたびに『頑張って』『応援してるわ』『楽しみ』という言葉をかけられた。


 最初から選ばれていたメンバーとは違ってわたしはおこぼれでこのような機会に巡り会えたおまけでしかないのに、恐ろしいほどその情報は早く流れ、不安と申し訳なさでいっぱいだ。


 他のみんなにどう思われているのか、考えただけでぞっとする。


「テオのやつ、やってくれたわね」


 姉さんは困ったように笑顔を作る。


「いつまでもアイリーンが大好きなのは結構だけど、今回ばかりはひどいわね。アイリーンがこんなに騒がれるなんてこと、好むはずがないのにね。まぁ、どうせただ単純にアイリーンの舞姫姿が見たいだけなのよ」


「そ、そんなことは……」


 言いかけて力をなくす。


 なんだかどっと疲れた気がする。


 無意識にもずいぶん気を張っていたようだ。


「だけど、アイリーンの舞う姿はわたしも大好きよ」


 姉さんがわたしの頬をそっとなで、柔らかく目を細める。


 その言葉は心に染み渡るほど優しかった。


「別世界を垣間見た気持ちになれるというか、わたしの知る世界を一瞬で変えられてしまうの。とても美しいと思うわ」


「ありがとう、姉さん」


 嘆いていても仕方がない。


 今夜からでも練習をしようとは思っている。


 手持ちのお仕事が無事業中に終われば、の話だけど。


 なんだかんだで今日はあまりお客さんも来なかったため、手作業はずいぶん進み、いい進捗状況ではある。


「それより、あなたにお客様よ」


「え?」


「『ポリンピアの魔術師』に」


 できる?と口角を上げる姉さん。


「もう、その呼び方はやめてよね」


 言いつつも、わたしは姉さんのいうある一室へ向かう。


 いつの間にそんな名前がつけられたのだろうか。


 魔術だって思うように使用できないのに、皮肉でしかない。


 それでも知らないうちからそう呼ばれていた。

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