第11話 名もなき乙女の結末

 そんなときだった。


 物語にも存在しないはずの自分自身に大きな異変が起こったのは。


 大した出来事でもないちょっとした日常の中で、わたしの魔力が盛大な力をふるって爆発した。


 自分自身は何が起こったかよくわかっておらず、気づいたら周りのものを豪快に破損させていて、周りにいた人間たちが蒼白な顔をして怯えるようにわたしを見ていた。


 その後、すぐに王家の役人と名乗る人間たちに囚われることになる。


 囚われると言っても、そんな酷い扱いをうけたわけではなく、豪華なお部屋と三食のお食事つきで滞在させられたというだけなのだけど、要観察対象というか、『禁断の森』に入ってしまったということがきっかけで、もともとは微力だったはずの魔力に影響が生じたのではないかと言われ、警戒されていた。


 結局原因は分からなかったけど、それからもたびたび起こる異変にほとんどの者が対応しきれず、王家に仕える優秀な魔術師たちでさえ、わたしの力を恐れていたという。


 家に帰りたいとわたしは懇願した。


 結末探しの終着点が『王家に捉えられたまま一生を終える』というのも、いささか納得がいかなかった。


 たとえ名もなきキャラクターであっても、可能な限りの生き様だけは選ばせてほしい。


 そこで提案されたのが、封印の術式を体に刻み込むということだった。


 王宮の名のある術師たちにより施された術式で魔力を封印するのであれば、街に戻ることを許可すると言われた。


 わたしは迷わなかった。


 恐ろしいくらい広いお城に一ヶ月ほど滞在したあと、魔力を封印されたわたしは、無事家族の待ち望む家へ戻ることが叶った。


 王家のはからいからか、わたしが街から離れていたときのことは家族とテオや近しい人間にしか知らされておらず、わたしの魔力の暴走については街に住むほとんどの人間に知られることはなかった。


 不思議なことに、わたしの暴走を目の当たりにした人間たちさえ、何事もないように接してくれた。


 おかげで、誰からも恐れられることなく今の今まで平穏に生きてこれたと言っても過言ではない。


 たったひとつ、皮膚に刻み込まれた傷以外は。


 背中から左腕にかけて大きな傷が残った。


 傷というか、これが魔力を封印する術式なのだそうだけど、くっきりと刻まれたそれは傷跡と変わらなかった。


 なくなるかもしれなかった穏やかで当たり前の日々を思ったら、気にならなくなるまで時間はかからなかった。


 莫大な魔力は封印されたとはいえ、生活に支障が出ないくらいの小さな魔力は使えることが少しして判明した。


 きき手ではない左手を使用しなければならないため不便ではあったものの、元々ほとんどないに等しい微力な魔力の使い手だっただけに、以前とそう変わらず毎日が過ごせるようになったから嬉しかった。


 わたしは一日一日を大切に過ごすことを決めた。


 わたしの結末は、わたしが決める。


 心からそう決意した。

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