第66話 紫乃と美梅
紫乃たちが真犯人確保に向かっている間に、稲荷寿司は売り切れた。後片付けを手伝うため
黒髪をひっつめにした勝ち気な顔の毒見番、
「美梅」
美梅は柿色の着物の上から締めた前垂れを弄り、視線を左右に彷徨わせた後に紫乃に目線を固定する。
意を決したように勢いよく頭を下げた。
「…………色々と、酷い言葉を言ってごめんなさい。今回の件は助かったわ、ありがとう」
「何か酷い言葉なんて言われたっけ」
「それは! ……最初に会った時、アンタの料理なんて毒見しないとか。アンタを認めないとか……色々よ」
「あぁ」
言われて紫乃は思い出した。
「別に気にしてないよ。急にやって来た小娘を認められないなんて、当然だと思う」
「なっ…………」
「あの時は私も気が立っていたし、言い方に棘があったと思う。ごめん」
「アンタが謝る事なんて、何一つないでしょう……」
「そうかな。そうかもね」
紫乃の言葉に、美梅はきつく寄せていた眉根を解くと肩の力を抜いてだらりとした。
「何なのよアンタ。色々悩んでいたアタシが馬鹿みたいじゃない」
それから美梅は再び深々と頭を下げた。
「今回、黒幕が見つからなかったら、アタシは事件を起こした犯人として首を刎ねられていてもおかしくなかった。本当にありがとう」
「いいよ。私は食べ物を使って人を害するような奴が気に食わなかっただけだから。それに、礼を言うなら旦那に言って。
旦那が助けを求めて来なかったら、私は事件に気が付かなかったかもしれないし、動かなかったかもしれない」
あの時、旦那が必死の形相で助けを求めて
「そうね……旦那にもちゃんと、礼を言わないと」
「それから、あまり気にしなくても、旦那は美梅のことちゃんと考えてると思う」
紫乃は、木陰から美梅に菓子の差し入れをしようかどうしようか迷っていた旦那の様子を思い出しながら言った。今回の、事件を大きくしたくないと必死に言っていたのも、美梅が捕まるのを恐れての言動だろう。
美梅は少し頬を膨らませて、拗ねたように言った。
「わかってるわよ、そんな事……」
「じゃあ私は、御膳所の片付けに行く」
「待って、アタシも行くわ」
歩き出した紫乃の後を美梅が駆け足で追いかける。
御膳所で美梅に「全部、終わったわよ」と聞いた旦那は涙を流しながら美梅を抱きしめていた。
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