第36話 紫乃、都の食事に興味を示す
「何?
「はい。陛下が先ほどそうお伝えするようにと」
「急すぎるな……もう
唐突に告げられた
「あぁ、よかったじゃないですか、姐さん。休みですよ」
「休みって、そんな悠長な」
「いいんですよ。御料理番ってのは基本的に休みのない仕事でしょう。だからこうして陛下から『要らない』と言われない限り自由はないんです。御料理番ってのは結構大変な仕事で、
「そういうものなのか」
「そういうもんです。俺も若い時には休みなんぞいらんと思っていましたけど、
言って笑う
確かに、母ならそう言っているだろう。
「じゃあ、そうする」
「どうします? この豪勢な食材で、自分達の
「うーん……」
それも楽しそうだが、せっかく休みならば紫乃には一つやりたい事があった。
「
明け六つから食材の選定をし、昼からは夕餉の準備。終わってからは自分達の食事をして、後片付け。それで一日が終わってしまうので、紫乃には
きらびやかな皇都に住む人たちが何を食べているのか、興味があった。
「なら、俺が案内しましょうか」
「適当に自分で見て回るよ」
「そうですか。なら、
「ありがとう。今日の皆の
「はい、お任せください」
いい笑顔で請け負う伴代と料理番たちを残し、紫乃は
伴代の忠告に従うべく、着替えをしようと一旦自室に戻る。部屋に入るとそこには、部屋でダラダラする猫姿の花見がいた。腹側を上にして大の字で寝そべる姿は、完全に野生を失った猫の姿である。こんな状態で外にいては、たちまち野犬や他の猫に襲われてしまう。
しかし本物の猫ではない花見にとってはどうだっていい些事だった。彼は寛ぎやすい格好でいるだけだ。
着物をするすると脱ぎ出した紫乃を見て花見は仰向けのまま怪訝そうに首を傾げる。
「にゃあ。紫乃、仕事はいいのかにゃ?」
「夕餉は要らないらしい。休みになったから、
「行く!」
それまでのだらけていた姿から考えられないほど、花見の動きは素早かった。
その場で一回転した花見はいつものごとく十歳ほどの人間形態に変化する。緑と白の縦縞模様の着物に、桜色の帯。頭頂部から飛び出る猫耳と臀部から伸びた尻尾は、わしゃわしゃと両手で触ると消え失せた。
これで花見はどこからどう見てもただの十歳の子供だ。
「これでどう?」
「ばっちり」
頷く紫乃の返事に満足した花見は、紫乃が山で着ていた地味な着物に着替えるのを待った後、二人で使用人宿舎を出た。
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