第24話 陛下が無茶を言う
紫乃は集まった面々を見回し、まずは献立について切り出した。
「夕餉には
紫乃が言うと、
「姐さん、それは難しいと思いますが」
料理人の一人がおずおずと手を上げて言うも、紫乃は「大丈夫」と請け負った。
「
「わかりました。俺たちは何をすればいい?」
「今朝と同じ。麦米を炊いて、食材の下拵え」
はい、と一斉に十人の声が重なり即座に動き出す。
誰が何を担当するか短く言葉を交わして決め、食材を洗う者、火を熾す者とそれぞれだ。
紫乃は朝と同じく
+++
給仕番を束ねる
皇帝である凱嵐が無茶を言い出したのだ。迷いのない足取りでズンズンと
「陛下、本当に行かれるんですか?」
「くどいぞ、大鈴。俺に二言はない」
「ですが……
「賢孝には後で言う」
「さぞお怒りになられるのでは……」
この大鈴の言葉に、凱嵐は眉を吊り上げた。元の顔立ちが良いので、こうして怒り顔となっても絵になるのだが、ときめいている場合ではない。
「大鈴。この国で最も権威ある人物は、俺ではなく賢孝か?」
「滅相もございません。陛下こそが十の諸国を従える真雨皇国の皇帝にございます」
「なら、いちいち賢孝の顔色を伺わなくても良かろう」
「はい、おっしゃる通りにございます」
「大体お前たちは心配性過ぎるんだ。飯の時くらいもう少しくつろぎたいと思うのが人間だろう。
「それは、まぁ、お立場が変わりましたので仕方のない事かと」
「またそれか」
足をピタリと止めた凱嵐が大鈴を振り返り、心底嫌そうな顔をした。
「お前も賢孝も、
その言葉は凱嵐の本音なのだろう。
剛岩にいた時はもっと距離が近かった。共に食事を摂るのが普通だったし、朝まで飲んで大騒ぎしたのも一度や二度ではない。
とは言われても、戦場の天幕内や旅の途中の野営地ならばともかく、一介の臣下にすぎない大鈴がこの天栄宮で凱嵐と食事を摂っていたらあまりにも変な光景だ。
それを重々心得ているからこそ凱嵐も今まで無茶を要求してこなかった。帝位就任直ぐに起こった毒殺未遂があってからは、
そんな微妙な均衡を破ったのが紫乃である。
紫乃は昨夜、「明日からは、
「少しでも出来立ての料理を食べて欲しいから」とも。
それは料理人として至極当然の要望だと思う。冷め切ったまずい料理など食べて欲しくない、出来立ての一番美味しい状態を味わってほしい、紫乃の言葉には純粋にそのような気持ちが込められていた。今まで御膳所の誰も言い出せなかった、けれど誰もが胸に抱えていた本音だ。
裏も表もない純粋な言葉に機嫌を良くした凱嵐が「ならば、そのようにしよう」に答え、今に至る。元来、凱嵐も実直な人間だ。だから紫乃のような人間を好ましく思うのも理解できた。
そう、凱嵐は今、御膳所を目指して歩いていた。
「そうだ、どうせなら
「恐れながら、厨にはとても陛下が腰を落ち着ける場所などございません」
「大鈴、お前なら知っているだろう。俺が、地べたに座って食事を摂るのも構わないような人間だと」
「ですが……」
「構わん。形式よりも大切なのは、出来立ての飯を食べる事だ」
あぁ、駄目だわと大鈴は心の中で嘆いた。
一度言い出したら聞かないのが、
これはもう絶対に
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