エトワール

莉理多

第1話 グランドメゾン エトワール

 3月21日(木)春分の日の今日。

会社も休みで昼近くまで寝ていようとしていた俺は朝の5時で悲しくも「いとこ」に起こされた。

不法侵入で訴えてもいいのでは?っていうか鍵どうやって開けた?などと考えられるほどまだ意識ははっきりとしていない。

ここは「八夜町」にある高級マンション「グランドメゾン エトワール」102号室。一昨日から住み始めた俺の新居である。腕を捕まれながら部屋の外へと出ていき、マンションの共有部分であるエントランスホールで足が止まる。ここのエントランスは高級マンションなだけあり、それなりの広さで、大理石の床や壁で包まれており、それらを照らす華やかな照明もある。

「ここ!電球切れちゃってるのよ。すぐに取り換えちゃって。」

頭も回らないまま、よろよろと脚立を登らされていく。

「水樹ー。それが終わったら次は共有バルコニーにある照明ね。前に同じ時期に取り替えたから切れる時も一緒なのね。」

仁王立ちし腕を組み、さながら強豪野球部の監督の様な振る舞いで言う女性はいとこの「早乙女 志保」。

「早くしてね。管理人さん。」

管理人という言葉で意識がはっきりとした。

「俺はまだ認めたわけじゃない。」

「今更なに言ってんのよ!それじゃあ部屋から出ていく?」

約2月前、いとこの志保から長い間、空いている部屋があるのでお金は取らないから住まないかとの誘いがあったのだ。

一度は女神にも思えたいとこが、2月後には悪魔と思えるのは越してきた後になって条件がいとこが大家のマンションの管理人になることであったのだ。この悪魔と契約をしてしまったのは自分のミスである。諦めて作業を開始した。

作業を終え、もうひと眠りしようと部屋に戻ろうとした時、

「あ、待って水樹!今日103号室に入居してくる人いるから。」

「ふーん。それで?」

「それで?じゃないわよ。あんたの部屋が管理人室っていうのは伝えてあるからきっとご挨拶に来ると思うから。共有部分の事ととか昨日私がここの説明したこと教えてあげなさいね。」

「えっ・・・まじで?」

最悪である。

母の言っていた無料より高いものはないという言葉を思い出した。

俺は平日は会社員として商社に勤めている。入社して3年ほどであるが任される仕事も増えてきていた。

そのため、休みや夜はゆっくりと自分の時間を大事に過ごしたいのだ。

しかし、家賃が掛からないのと、自分には不相応のマンションに住めている状況は実に捨てがたい。

「おおまじよ。来る前に玄関の花壇も綺麗にしておきなさいよ。よろしくねー。」

手をひらひらと振り、不気味な笑顔を浮かべながら志保は自分の部屋へと戻って行った。

次から次へと人使いが荒いいとこである。


 

時刻は9時を回り、103号室の住人となる人物が来る前に玄関の花壇の手入れをしに部屋から出てエントランスを歩いているとエレベーターが開くのに気付いた。

「あれ?早乙女さんが言ってた新しい管理人って君かい?」

爽やかな笑顔でエレベーターから出てきた男が言った。

モデルのようなスタイルに甘い面持ちで主張の激しくない顎鬚がワイルドさも感じさせている。一言でいうとチャラそう(イケメン)である。

おれはチャラい奴(イケメン)の敵であるが、これでも一応社会人の端くれだ。管理人の仕事をしているわけだし一応挨拶くらいしといてやるか。

「おはようございます。早乙女のいとこで一昨日から管理人になりました、小野谷です。宜しくお願いします。」

「これはどうも。宜しく管理人さん。僕は203号室の出射です。早乙女さんに聞いていた通り今度は随分若い管理人さんだね。今いくつなの?」

「25歳です。」

志保から住人の方たちの説明を少々受けていた。

エトワールには全部で6部屋があり、おれを含めて現在5部屋が使われている。

101号室には天草さんという若い女性が。

102号室はおれ。

103号室は入居予定の人。

201号室にはいとこの志保。

202号室が現在空室となっている。

そして203号室に住んているのが目の前にいるこの男である。

出射 凌太、33歳。弁護士の仕事をしており、数年前に独立をして、事務所を立ち上げている。志保の話だと腕の立つ弁護士らしいがプライベートはとにかく適当でかなりチャラチャラしているらしい。(一体何があったのか・・・)

「25歳かー。若いって素晴らしいね。これからお出かけでもするのかい?」

「いえ。もうじき新しい住人の方がいらっしゃるのでその前に花壇の手入れを」

「そうか。だったら2人の歓迎会しないといけないな。早乙女さんと天草さんを誘って食事会を開こう」

会って数分で食事の誘いをするコミュ力お化けの男に拍手。

だが断る!(ジョジョ風)おれは別に仲良くしなくて結構だ。むしろ関わってしまって雑用を押し付けられやすくなっても困る。ここは欠席するのが良いだろう。どう断ろうか、頭を回転させていた時、エントランスの入り口が開く音がした。







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