第79話:破魔の矢1

 破邪のネックレスが完成した翌日。魔装具が作れると確信した私たちは、全力で破魔の矢の制作に取り掛かった。


 ヴァネッサさんが完成一歩手前まで作ってくれていた破邪のネックレスとは違い、最初からすべて自分たちだけで作らなければならない。


 国王様から私が受けた依頼……ではあるのだが、工房の総力を合わせて挑んでいる。一人でできると思うほど、私は自惚れていない。


 なんと言っても、一足先に素材の下処理をしてくれているクレイン様でさえ、慣れない作業に苦戦しているのだから。


「ミスリル鉱石とユニコーンの角をベースに制作しようと思っていたんだが、後者は扱いが難しすぎる。ホーリーロックの爪を媒介にして、魔力の安定性を向上するべきだろう」

「そのあたりの難しい判断はお任せします」

「わかった。可能な限り作りやすいように調整しておこう」


 ひと手間もふた手間も増やすことになるかもしれないが、失敗するよりはいい。高価な素材を無駄にはできないし、目的は破魔の矢を作り上げることだ。


 まだまだ不安要素だってあるし、時間がかかるのは仕方がない。


 そんなことを考えていると、ヴァネッサさんの資料を読み込んでいるリオンくんが近づいてくる。


「魔物の素材を複数使用しているので、付与する前にミーアさんの魔力を浸透させて、馴染ませましょう。ヴァネッサ様が破邪のネックレスを作られた時も、同じことをしています」

「わかりました。あと、一つ不安なことがあるんですけど……」

「どうされましたか?」

「魔物の素材を使用して錬金術を行なうのは、今回が初めてなんですよね。注意点とかあります?」

「見習い錬金術師らしい悩みですが、気にする必要はありません。そのためにクレイン様が丹念に下処理をして下さっているので」

「そうですか。じゃあ、私は頑張って付与するだけですね」

「はい。付与の方も可能なところは僕がサポートしますよ」

「よろしくお願いします。頼りにしてますね」


 三人で一歩ずつ前に進むように、着実に破魔の矢を作り上げていく。


 慌てない、失敗しない、丁寧に作り込む……そんなことを意識して作り続けていくが、上級素材を使った錬金術は難しい。


 あーだこーだと言いながら、クレイン様に聞いたり、リオンくんに手伝ってもらったり、二人に調べてもらったりして、魔装具の作業を一心不乱に続けていった。


 すると、日が暮れる頃には、何とか破魔の矢のベースが完成する。


 あとは神聖錬金術で仕上げをして、古代錬金術で作られた魔法陣を壊すだけだ。


「よしっ! 二つ目の魔装具を作るぞー!」


 ……と、意気込むのだが、なぜか二人に白い目を向けられてしまう。


「本当に大丈夫か? もう夜が更けているぞ」

「慣れない作業をしている時は、特に無理は禁物ですよ」


 自分たちだけで魔装具を作るという偉業に対して、過剰に興奮していたらしい。


 苦戦を強いられる作業ばかりだったけど、完成していくのが嬉しくて、すっかり時間を忘れてしまっていた。


「あぁー……確かに危ないかもです。このままでは、魔力切れしそうな気配が……」


 神聖錬金術で倒れた経験があるのに、体調管理もできないとは。我ながら錬金術バカだと自覚する。


「変なところだけは見習い錬金術師だな」

「本当ですよ。あんなすごい錬金術が使えるのが、まるで嘘みたいです」


 ブーブーと二人はぼやくけど、破邪のネックレスを完成させた時は、しっかりと褒めてもらっている。


 特に、神聖錬金術のことは話していなかったリオンくんには「すごかったですよー! ミーアさんっ!」と、子犬化して見えない小さな尻尾を振り回していたほどだった。


 目を輝かせるリオンくんに尊敬する眼差しを向けられ、温かい眼差しで労ってくれるクレイン様に挟まれ、良い職場で過ごしていたはずなのに……。


 今となっては、その二人にジト目を向けられている。


「やはりリオンの力が必要だな。俺は他にまだやることがある。可能な限りでいいから、付与作業は手伝ってやってくれ」

「わかりました。ミーアさんが魔力切れを起こさないように、しっかりと補佐したいと思います」


 変なところで意気投合する二人に見守られながら、この日の作業を終えるのであった。

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