第4話 世界の歪み

 数十億の人口が世界から忽然と消え去った。それを説明出来る者は皆無だった。そう。あの八重歯の神様が創り出したこの世界は、かつてない程の大混乱に陥っていた。


 世界から何故男が消え去ったのか。残された女達は必死にその理由を考えた。だが、理解出来る筈も無く、世界各国の政府はその理由を「行方不明」と公式発表した。


 世界人口の半数が隠れる場所なんてある訳ないじゃん? 皆それを分かっていた。だが、頭では理解していても昨日まで普通に存在していた父親。兄。弟。クラスメイトの男子。彼氏。


 それらが一瞬にして居なくなった理由を何かしら言語化したかったのだろう。女は永らく男に支配されてきた。その軛から脱した歴史的な日になる。


 男が世界から消え去ったその日を世界共通の祝日としようと謳う団体が世界各地で出現し始めた。男による女性への性被害はゼロとなり、紛争や戦争がピタリと無くなった。それが団体の活動をより活発にさせた。


 そう。世界はある種の熱気に包まれていた。女性同士のカップル達はここぞとばかりに自分達の時代が到来したと歓喜した。


 これまでの人類の世界史は横暴な男達の恥ずべき歴史だと男を断罪した。これからは自然と共に共生していく理想郷のような世界になると人々は夢想した。


 ······そう。それは文字通り夢想だった。一時の熱狂が過ぎれば、残された女達は途方に暮れた。これからはかつて男達が担ってきた役割を自分達が引き受けなくてはならないからだ。


 女の本能か生物としての本能か。精子バンクの会社に女達は殺到した。全財産を差出しても子供を産みたいと絶叫する女達。


 凍結された貴重な精子は一部の富豪や権力者達に独占された。だが、その一部の特権階級達も直ぐに絶望する。


 何故なら運良く懐妊出来ても出産した赤子は全て女だったのだ。世界中を覆った熱気は停滞し、悲観に変わるのにそう時間はかからなかった。


 ······このままでは人類は亡びる。次世代を残せないと気付いた女達は、唯一の希望にすがる。その希望とは、極東の島国に存在する十八歳の男。


 つまり、草臥損(くたびそん)俺の存在だった。

世界各国の政府は日本に要求してきた。唯一無二となった俺を世界の為に差し出せと。


 要するに俺を種馬として世界が平等に利用しようとする提案だった。提案は催促になり、催促は恫喝にり、やがて恫喝は最後通告になった。


 世界各国は連合軍を編成し、日本に攻め込もうとしていた。かつて男達の歴史を侮蔑した女達は、その男達の歴史をなぞるようにその手に武器を携えていた。


 

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