幕間① ただいまより|語り手:真間 塁|は、約1600文字分の休憩をいただきます。

ふたり|主演:俳優天十郎が語る|

 ソファーベッドに寝転がっている夏梅が「食べたい~。食べたい~」といいながら、突然に起き出して俺の後ろからぺったりくっついてきた。嬉しそうに、俺を捕まえて、抱き着き腕を絡めて目の前にやって来ると俺の目をみた。


 時々、彼女がこうやってベタベタして来るのを、俺は拒否できない。抱き寄せ、夏梅の存在を確かめる。


 首筋にキスをしてくる。


「おい、俺を食べるつもりか?」

「うん、食べたい~。この間も蒲と塁にわざと言ってやった」


「なんて?」


「うん、食べたい~。犬のお母さんが子犬を舐めるように、慈しみたい、なんでもしてあげたい、可愛がりたい、甘えて欲しい、抱きしめたい、それに、可愛がって欲しい、安心して欲しい、抱きしめて欲しい、愛して欲しい、甘えたい、キスしたい、腕の中で眠りたい、ぺろぺろとなめまわしたい。うー。したい、したい~。どうにも気持ちが治まらない。感じ?」


「そんなに、俺の事が好きか?」

「うん!愛してるって、百回言っていい?」


「だめだ」

「じゃあ、好きを千回」


 そう言いながら彼女は俺にまとわりつく。


「今は大丈夫なのか?」

「うん、蒲について塁は二階にあがっている」


「そうか、夏梅、この家に入り込んだのは、いいけれどなんで俺が蒲の彼氏の役なの?」

「さあ?」


「さあって、あいつと絡むのは面倒だ」

「だって~。あいつが勝手にそう思っているから、そうしてあげないと」


「それはそうと、体は平気か?なんか、変なことばかり起こるから、面食らうよ。怪我ばかりじゃないか?」

「心配?」


「もちろんだ。ベッドの中で気持ち良くお前を抱いて寝ていたのに、塁が来た!思いっきり突き飛ばせっていうから、やったけど…。俺、生きた心地がしなかったよ。だらり帯の時も蒲はへらへら笑っているし、今までどんな生活していたのさ、心配するのが当たり前だ」


「じゃあ、ベットから突き飛ばしたのは、キス十回で許してあげる」


「あ?なに?俺のせいなの?それに俺は十回しかお前にキスできないってことか?却下。納得できない」

「うふふ」


「うふふ、じゃぁねえよ。しかしこの役どころ忍耐がいるな」

「無理っぽい?」


「しんどいな。加減がわからねえ」

「なんか、この間、塁に抱き枕の話をしたでしょ」


「あ?ああそうだったか?いつの話よ」

「使い捨てカイロの時」


「覚えているよ。ここで話したよな。それって問題あるの?」

「おおあり!全然ダメ」


「は?どこが?どうして?わかんねえ」


 夏梅は俺の腕の中で考えこんだ。


「うーんとそうだよね。とりあえず、わたしに目薬を差してみる?」


「するとどうなるの?」

「ちょっとした、騒ぎになるから、蒲と一緒にニヤニヤしてればいいよ」


「なにかヤバい事じゃないの。そんな気がする」

「今のところ、他に方法が思い当たらないからな~」


 俺は、ため息をついた。彼女は嬉しそうに、甘えながら話をしているが、今の俺にわかるのは、正解がわからない台本の「結」が見えない不安だけだ。


「そうだな、だけど、現実的に、今のところ、二人でこの家を出ても、蒲もその塁ってやつもついてくるだろうしな」

「そう思う?」


「ああ、なんだろう、よくわからないけど、蒲は執着しているよな。お前の態度が良くないんじゃないの?」

「そうなのかな?小さい頃からこんな感じだから、なにが良くて何が悪いのかわからない」


「蒲の事が好きなの?」

「冗談でしょ」


 疑わしい俺の目線に

「嫉妬深い男は嫌いだよ」


「まあ、お前の場合はそうだろうな…。だけど、あの垢すりタイムってなんだよ。これからは俺が専属になるからな」


「お!いいアイデア!垢すりタイムに一緒にいられれば、話をする時間も多くなるかもな、あの二人、私の垢すりタイムに興味はないから…」


「ほんとうか?違うだろ」

「蒲は暴力ばかりふるうから嫌い。塁なんか、天十郎に入り込むからもっと嫌い。ほんと嫌い」


「その割にはさ…」と俺が言いかけている時に彼女が急に俺から離れた。


 それまで、俺の目を見つめて嬉しそうに話をしていた夏梅は、リビングの入り口の方に目を向けたまま黙りこくった。





【休憩が終わり、第二幕「色目と表沙汰」が開幕する】


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