第15話 泣けとばかりに
最近、少し疲れているのか、
バスの中で寝てしまうことが多い。
あの車内の微妙な揺れや室温、
コロナ禍でおしゃべりする人もいなくて静か。
そんな環境が、私を眠りに誘うのだ。
その日も会社の帰りにバスで帰宅しようと、バスに乗り込んだ。
2人掛けのシートに座ると、私の隣のシートに、女子高生が横になって寝ていた。
最初は気分でも悪いのかと思った。が、フツーに寝ている。なんなら寝息まで聞こえそうだ。
バスの2人掛けのシートに、モロに横になって寝るって、ちょっと出来ない。それもミニスカートで。
最近の女子高生はそんなにもお疲れなのか。
私は横にはならずに、窓にもたれながらうとうとしていた。うとうとしてるつもりだった。
が、がっつり寝てしまった。
私は運転手さんがマイクで「終点ですよ」という声で目を覚ました。
周りを見回すともう寝ていた女子高生もいなくなっていて、乗ってるのは私だけだった。
窓の外には埠頭に打ちつける荒い太平洋の波が見えた。人っ子一人いない、寂れた埠頭に流れ着いてしまった。もう日も暮れて真っ暗だ。
取り返しのつかないことをしてしまいました。
私はあわてて運転手さんに、「このバスは折り返しますか?」と聞いた。
すると「このバスは回送になるから」
終わった。
バス停の時刻表を見るとあと1時間はバスが来ない。
私は自暴自棄になり、真っ暗な埠頭の真ん中まで行って体育座りをした。
『波の音が胸を揺する泣けとばかりに』
そんな歌のフレーズを思い出していた。お局様がカラオケで歌ってたっけ。
私は髪を風になびかせたまま、
バスを待った。
なんなら横になって寝たかった。
さっきの女子高生のように。
埠頭に横になって寝ている会社員を、
人はどんな目で見るのだろうか。
人なんていないけど。
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