第13話 凶器のダジャレ
我が社は他の社に倣ってか、喫煙者に厳しい。社内は完全禁煙だし、吸える所といえば、駅前まで歩いて前面ガラス張りの喫煙所まで行かないといけない。
で、我が社の柿谷部長も駅前まで行くのがめんどいのでタバコをやめた。
だが部長はタバコをやめたら、そのストレスのせいか、前にも増してダジャレを言うようになってしまった。
「水島くん、あそこのトイレ遠いけど行っトイレ!便器でな!」
「俺ご飯派なのに、朝食にパンが出て超ショック!(朝食っ!)」
「ほんとによぉ、お金はおっかねえよぉ(熱演)」
「手帳もいろんな大きさのがあるな。ダイアリー(大あり)小ありだ」
「朝のニュース見てたら土管がドッカーンって爆発してて」
意外と面白いものもある。
が、ずっと聞いてるのはつらい。
ある日、部長と話す機会があって、
「夕べ、うちゴキブリが出たんだよね。あの動きっぷりったらすごいのよ」
私はその『動きっぷり』って言葉に、瞬時に反応した。
動きっぷり→うごきっぷり→ごきっぷり→ゴキブリ。
これはダジャレだったのか?
それともフツーの会話だったのか?
ダジャレだったとしたら、嘘でも笑わないといけない。でもフツーの会話をしてるのに、突然笑ったら不自然だ。
ダジャレなんかを言う人間とはいえ、相手は部長なのだ。
ダジャレorフツーの会話。
どっちだ。
私はダジャレだった方にベットした。
「ゴキブリの動きっぷりってダジャレ、面白いですね」と笑った。
「えっ、ダジャレなんて言ってけど」
眉間にシワを寄せて言った。
と、取り返しのつかないことをしてしまいました。
ダジャレじゃなかったなんて。
私は「ごめんなさい。あ、あの、ゴキブリの動きっぷり、う、ゴキブリっていうダジャレかと思いまして」
すると眉間のシワがすっと消え、天使の笑顔を見せて、
「ゴキブリの動きっぷりって、いいねえ。今度、使わせてね」
しまった。はからずも部長に凶器を渡してしまった。私の凶器で、誰かが顔をひきつらせて笑うことを強いられませんように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます