第2話 健太とケンタ

会社の喫茶スペースで、

課長にまた2択を迫られた。

課長は2択バカ一代だ。


「みさきさんは犬派?猫派?」


まただ。またどちらでもない2択を、

私の首元に突きつけてくる。匕首のように。


私はリスやハムスターなどの、げっ歯類派だ。

が、課長の選択肢に『げっ歯派』は入ってない。


あくまで『犬派』or『猫派』だ。


私は迷わず『犬派』を選択した。

『げっ歯類派』にとって、『猫派』は天敵なのだ。


「犬派です」

「そう。犬は飼ったことある?」

「ええ、実家でポメラニアンを飼ってます」


そこで私は思った。

課長の名前は黒木健太だ。


私の実家の犬の名前はケンタ。

健太とケンタ。


課長の名前が、うちの犬の名前と一緒。


これはまずい案件だ。

このことを知ったら課長はどう思うだろう。


「へー、そうなんだ」

「はい」

「かわいい?」

「とても」


よし。ここで課長はどちら派ですか?などと聞けば、私の実家の犬の話題には戻らないだろう。


しかし課長はそうはさせなかった。

スンと、私が詰むしかない所に、駒を置いた。


「その子の名前はなんていうの?」


詰んでしまいました。

参りました。


でも私は瞬時に、「ショータです」と答えた。

翔太、元カレの名前だ。


「そうなんだ。良い名前だね」


課長はそう言うと、総務の人に呼ばれ(課長いつも総務の人に呼ばれてるな)、喫茶スペースから出て行った。


私は瞬時に嘘をつける女になってしまった。

今夜の酒は苦いだろう。

ハピクルサワーだけど。



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