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※ かなりグロいシーンがあります。ご注意ください。
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「やめろぉおおおおーーーーッツ!!!」
物思いにふけっていた俺は、体育館に響き渡る悲鳴で、俺は意識を取り戻した。
(何だ?!)
声がしたほうを見る。
少年が一人、宙に浮いていた。
(はぁ?!)
ほんの一秒程度の静寂――そして悲鳴。
「きゃぁーーーーっ!」
「なんだぁ?!」
「うおっ、マジかよ!」
「何なに?! えーっ! なんじゃこりゃ!!」
「おっ、おい、光輝、なにしてんだお前?!」
友人から光輝と呼ばれた少年――どうやら1年生らしい。俺には見覚えがない顔だった――は、仰向けにされた状態で宙に浮いており、苦しそうに手足をバタバタさせている。
「や、やめ、やめて……!!」
苦しそうに呻いているが、それもそのはず、少年の腹がどんどん膨らんでいく。
まるでアドバルーンだった。
チャーリーとチョコレート工場という映画を見たことがあるだろうか?
ティム・バートン版のほうだ。
あの映画の中で、一人の少女が風船ガムのほうに膨らむシーンがある――ちょうどアレによく似た状態だった。
しかしここはコメディ映画ではなく現実の世界だ。
あんなに綺麗に膨らむわけはなく、少年は激痛にのたうち回っているように見えた。
ブチブチと弾け飛ぶボタン。
白いシャツも限界を超えて、パンパンに膨れた腹が丸見えになっている。
皮膚の下で肉が割れて、紅白の線が走りまくっている。
「う……が……っ! や、やめ……ゴボッ」
少年の目が飛び出していく。
そのうちに、意識を失ったのか、だらりと手足を垂らす。
ちゅぽん、と目玉がこぼれ落ち、視神経でぶら下がっている。
口から胃袋らしき内臓がはみ出していた。
喉が倍ほどに膨れて、顎がどこだかわからない。
胸が内側から膨らみ、バキ、バキと肋骨が骨折する音が響く。
まるで、釣り上げられた深海魚のような有様だった。
「「「「きゃあーーーーッ!!!!」」」」
異常な光景に、女生徒たちが一斉に悲鳴を上げる。
哀れな少年アドバルーンは、もはや体積が3〜4倍ほどに膨れ上がっている。
生徒たちはそこから離れようと必死になり、体育館の壁際は大渋滞だった。
「こ、こっここ、こ、コラーッ! な、な、な、何をしているーッ!!」
体育教師の太田が叫んでいる。
あいつ、本物のバカなんじゃないか。
「ごぼっ……!!!」
アドバルーンから奇怪な声にならない声。
もはや全員が、恐怖のあまり何も言えなくなっていた。
皆が目をそらすことすらできず注視している中、少年はますます膨らんでいく。
そしてついに。
パァアアアアアーーーーーン!!
と大きな音がして、少年が弾け飛んだ。
「「「「ぎゃあああーーーーーーッ!!!!」」」」
悲鳴、怒号、混乱。
生徒たち、教師も含め、全員が恐慌状態のなか、少年の体は爆弾でぶっ飛ばされたみたいに、肉という肉が細切れになって、弾け飛ぶ。
血煙が撒き散らされ、そしてビタビタビタと体育館の床を――
――床を汚さなかった。
「「「「は?」」」」
飛び散る肉片。
やけに鮮やかな腸、よくわからない内蔵。
折れて肉を突き破る骨。
スイカ割りで大命中した時みたいに景気よく弾けた顔面。
目玉や顎などの顔を構成していたパーツ。
そして大量の血液。
それらは、全て空中で静止していた。
完全に時間が止まったみたいに。
まるで爆発した瞬間にアクリル樹脂で固められたみたいに。
歯の一本、血の一滴一滴まで、ピタリと空中で止まっている。
それは間違いなく、この世界で最もグロテスクな標本だった。
体育館は静かになっていた。
そこらじゅうから、呼吸困難らしき「ヒッ、ヒッ」みたいな声や、明らかに正気を失っている「あ、あ、あ」みたいな声は聞こえるし、あとそこら中でゲロをぶちまけてる。中には「あは、あは、あは」みたいな奇怪な笑い声を上げてるやつまでいる。
たぶん脳が負荷に耐えられなかったのだろう。
泡を吹いて気絶しているやつは多いものの、目をそらしている生徒はごくわずかしかいなかった。
ほとんどは、奇怪なオブジェから目を離せずにいる。
そんな狂気にまみれた空気のなか、パン、パン、パン……と、やけにゆっくりした拍手の音が聞こえて、全員が一斉にそちらを向いた。
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