真相
「そういえば、神坂さん」
話題を提供しようとする李依。それよりも先に神坂さんには話しておきたいことがあるらしい。
「高梨さん、もしよかったらなんだけど、昔みたいにすみれって呼んでもらえないかな?」
「えっ?」
すみれという響きには聞き覚えがあるが彼女とはまだ結びつかない。
「リレーの選手を譲ってあげた仲じゃない?」
――えっ? 誰? リレーの選手?
「自転車で転んで骨折するの本当に怖かったんだから」
「えっ、神坂さんてあのすみれなの? ていうかその言い方ってまさか!?」
「だって、李依がリレーの選手になりたいて言うから、わざと骨折したの、つい」
「だから、その『つい』って何なのよ! はやらせたいの?」
「小学校時代の李依と神坂さんとの一件は願いの力でも予知能力でも偶然でもなかったんだね。屈服?」
李依を徹底的に茶化し倒す信人。ここぞとばかりに普段の鬱憤を晴らしている。
「うるさいわね――!」
「李依の喜ぶ顔が見たくて、つい」
「あなたねぇ――、そういうことはもう二度としないで! あんな方法でリレーの選手になれたからって私が喜ぶわけないじゃない!」
――やった―、これですみれの代わりに私がリレーの選手に……
「結構、喜んでたみたいだったけど?」
「だから、信人は黙ってて!!」
「ごめんなさい。でもよかった。李依、お父さんを事故で亡くしてから誰とも関わろうとしなくなったじゃない? 私も、何度も話しかけようとしたんだけど……なぜだかどうしてもできなくて……そんな自分が許せなかったの」
「そ、それは……」
――誰も私に話しかけないで……
「それは、神坂さんのせいじゃない。だから神坂さんが気に病むことはないよ」
信人の言葉に何も言い返せない李依。
「そうしたら、信人君と最近楽しそうにしているから、安心してたんだ」
「いやいや、安心? 嫉妬でしょ?」
かなり前からすみれの感情は信人に筒抜けだったらしい。
「信人君のその力、普通にウザいんですけど……」
「でしょ、プライバシーの侵害でいつか訴えてやろうかしら」
共感する李依。すみれも激しく同意といった表情である。
「でも、信人君には本当に感謝してるんだ。その能力のおかけでこうしてまた李依と話すことができたんだもの」
すみれは、父親を亡くした李依から結果的に去っていってしまった自分がずっと許せなかったのだろう。李依はそんな気持ちを察してこう思考するのだった。
――人との関わりを完全に絶ってきたあの7年間は一体何だったのだろう。これ以上罪を重ねてはいけないとの思いからとった行動で、こんなにも身近にいてくれた大切な友人に罪の意識を植え付けてしまっていたなんて……
自分の能力の罪深さを改めて思い知らされた李依の口からこぼれた言葉はとてもシンプルだった。
「すみれ、色々とごめんなさい。これからまたよろしくお願いします」
ベッドに腰を下ろしていた李依にジャンピングダイブで抱きつくすみれ。
「こちらこそ、よろしく――」
「あなた、何か勘違いしてない? 友達としてよ、友達として」
「そうよね。まずは、友達からよね」
「だから、『から』も『まで』もな――い! あなたとは一生友達よ!」
「そいはそいでちかっぱうれしいちゃ――」
すみれはとても複雑な表情で目に涙を浮かべていた。
「で、すみれ、信人のお母さんには会った?」
ようやく李依が話題を戻した。
「うん。なんかすごかった」
迷わず、即答である。
「ママに対する第一印象って二人とも共通なんだね」
「ママ?」
予想通りすみれもそこに引っかかった。
「そう、そう、この人マザコンなのよ」
「ママがムスコンなんだって」
「だから、ママがってそれがマザコンなのよ!!」
――って、なんだかこのやり取りも飽きたわね。
「呼んだかしら」
噂の信人ママ再登場である。
「それで? 神坂さんは信人とどういう関係なのかしら?」
「ママ、実は、たった今、神坂さんが高梨さんに告白したところなんだ」
いたずらに話をややこしくしたがる信人。
「あら、そうなの。安心したわ。てっきり、三角関係の修羅場かと」
満面の笑みで話を続ける信人ママ。
「二人の距離を縮めるためには……そうね! 肝試しね!」
「ちょっと、何言ってるか分からないんですけど」
「私は信人と親睦を深めるから、神坂さんは高梨さんと……」
「いいですね――」
すみれが信人ママと結託した瞬間だった。
「ちょっ、すみれ!」
「それじゃ――! 今度の週末はドキドキ肝試し大会開催決定!!」
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