第8話 愛の試練
◇◇◇
結論から言うと全然大丈夫じゃなかった。
「姫様、あのキマイラを竜王陛下への手土産にいたしますのでしばし目をつぶっていてくださいね」
「い、いやじゃ!キマイラなど怒らせたら頭から食われてしまうぞ!」
「ご安心を。私には何ほどのものではありません。姫に私の強さをお見せしましょう!」
「ひ、ひいい……」
シルビアは忘れていた。竜人族は脳筋ぞろいだということを。城を発って数カ月、アレンはひたすら魔物討伐を繰り返していた。そう、竜人族の男は、自らの強さを番に示すのが最大の求愛行動なのだ。
愛するシルビアのために次々と伝説級の怪物に挑むアレン。その姿は確かに死ぬほどかっこいいのだが、毎回シルビアの胸は心配で張り裂けそうになる。しかもどんな困難からもシルビアを護れることを示すために常にシルビアを片手で抱っこした状態で戦っているのだ。
必死に縋り付くシルビアを愛し気に抱き寄せるアレン。
今ならわかる。爺の言ったあの言葉が!強さに全幅の信頼がおける相手でなければ確かにこの蜜月を耐えきることなどできない。国一番の勇者がふさわしいと言った爺の言葉は間違いではなかった!
しかも蜜月で討伐した獲物の強さはそのまま番への愛の大きさを示すものとして皆に披露する習わしになっている。ただの竜人族ならそこそこの獲物でも許されるだろうが、次期竜王ともなれば期待も大きい。そして、アレンは期待を裏切らない男だった。
「う、うう、アレンといちゃいちゃできると思っていたのに……」
ぐぎゃーぎじゃーと断末魔の悲鳴を上げるキマイラを決して見ないようにしながらシルビアは一人遠い目をする。
最後の一振りでキマイラを討ち取ると、剣を収めてシルビアを抱き寄せるアレン。
「あ、アレン、もう目を開けても良いか?」
「はい、姫様。キマイラも無事討伐完了いたしました。これより先は姫様よりの愛を見せていただく番です」
「わらわからの愛?」
きょとんと首をかしげるシルビア。シルビアは知らなかったのだが、蜜月が激しければ激しいほど、生存本能を刺激された女性は子どもを産みやすくなるとか。
「そ、そ、それはつまり……」
「たくさんご褒美をくださいね」
ちゅっとおでこにキスをされて真っ赤になるシルビア。
シルビアの本当の試練はこれから始まるのだった。
おしまい
竜の姫と竜の騎士 しましまにゃんこ @manekinekoxxx
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