私のストレンジメモリー

@banbanban_0

第1話 unusual days ①

2022年4月6日 22:30頃

とあるビルの屋上に男女2人


「ジェディ、離反者フリーズの射殺許可を。」


短髪で全身物騒な、まるで戦時中かのような格好をし、手には狙撃銃らしきもの、コードネーム"ジュディ"。


「待て、待つんだ。まだ危ない。やつが"能力"をどう使うのかわからない限り、むやみに打つのは自殺行為だ。」


物騒な格好、ミリタリー調の服に金髪でガタイのいい男、コードネーム"ジェディ"


「承知しました。」


俺たちは今、ビルの屋上にいる。今日の任務は、我々の組織を離反した裏切り者を消すために派遣された。標的はコードネーム"フリーズ"。

能力は凍結、別称『スノーピッグ』。

俺たちは組織の中でも最高ランクの殺し屋だ。主に海外を拠点にして任務を遂行している。

だが、今日に限り、派遣されたのはここ日本の首都東京だ。それほどにフリーズは強敵だと言えた。


「ジェディ、もう2時間が経とうとしています。フリーズは、いまだ動き無しです。」


「おかしい。今まで派遣されてきた同類もこれだけ隙があれば殺れたはずだ。『スノーピッグ』は近距離戦闘向きの能力のはずだ。」


そう、フリーズが離反してこれまで1ヶ月程たっている。組織を離反すれば即刻存在抹消をされるはずなのだが、フリーズは俺たちの同類達を今まで5人返り討ちにしている。

組織はあらゆるところに繋がっている。今の日本の内閣総理大臣である伊野原正蔵いのはらしょうぞうでさえも、我々の組織と関わりがあり逆らえない程だ。


「なぁ、ジュディ。フリーズの能力的に、遠距離攻撃型の能力者を返り討ちできるとは思わねぇよな。」


「ありえません………」


「だとするとよ」────その時だった


「ジェディ、標的フリーズから位置がバレました。今すぐ後退です。」


「なに?こちらとの距離はそう近くは無いはずだ、なぜバレた?」


俺は高性能スコープでフリーズを見た。俺は固まった。組織でもトップランクの殺し屋である俺が恐怖したのだ。


…何故なら


「ジュディ、今すぐ隠れろ!完璧に位置がバレている。」


「承知しました。」


俺はその場に高性能スコープを設置しそのまま

ビル屋上の貯水タンク裏に身を隠した。スコープと小型PCでデータ共有を行い、フリーズの監視を続けた。フリーズはこちらを見ていた、スコープ越しに目が合ったのだ。それはあまりにも不可解であった。


「まるで、俺たちがいることを最初から分かっていたようだ。」


「それは不可能です。私たちの情報は世界でもトップクラスの特殊電波により共有されています。」


「それがまた俺は不可解なんだがな。」


「と言うと…」


「組織の中にフリーズの離反を援助している奴がいるとしたら?」


そう、そうでないとおかしいのだ。遠距離攻撃型の同類達を近距離戦闘型のフリーズが1人で返り討ちにできると思わない。そもそも、何故フリーズは逃げも隠れもせずに堂々とこの東京の町を歩いているのだ?


「ジェディ、フリーズに動きがありました。こちらに向かっています。迎え撃ちますか?」


「何故だ、2対1だぞ。やはり、何かおかしい。ジュディ、今日は一旦退避だ。」


「承知しました。ですが、フリー……」


途端にジュディが固まった表情をした。まるで冷気にでも触れたような…


「どうした?ジュディ!!」


その瞬間、俺の後ろから声がした。それは冷たくて、鋭くて、凍りつくような、そんな声だった。


「やあ、殺し屋。今日も懲りずに僕を殺しに来たのかい?」


パキパキパキッ


俺は咄嗟に後ろを向き、戦闘態勢に入った。

その凍りつくような声は、先程までビルの下にいた、フリーズだった。その男…少年の周りは4月にもかかわらず、まるで真冬のように冷気が漂っていた。


「どうやってここまで来た?」


「殺し屋に、僕の手の内を明かすわけないだろう?」


「ジェディ、即刻戦闘開始命令を」


「女の子なのに物騒なこと言わないでよ。僕は戦うつもりは無いよ。今日のところは帰ってくれないか?」


「どういう事だ、これまでお前に5人もの刺客が来たはずだが、それはお前が殺したんだろ?」


フリーズは、冷たい目でこちらを見ている。


「仕方が無かった。僕だって生きたいからね。」


パキパキパキッ


退避それもありえた。そう、少年がまだビルの下にいた時であれば。だが今は違う。目の前にいる。それなのにここで退避すれば、我々の任務達成率、組織での立ち位置が揺らぐ。


「すまねぇが、こっちにもプライドってのがあんだよ。ジュディ、何がなんでもこいつを殺せ。」


「かしこまりま…」


バキバキバキッ ズサッ


俺は、わからなかった。人間は咄嗟の出来事に対応するのは難しい。だが俺たちは特殊な訓練を受けた、特殊な人間だ。その俺が判断出来なかった。フリーズがなにかを放ったのだ。それが隣にいたジュディに…


バタッ


「ジュディ!?」


「もう死んでいるよ。頭を狙ったからね。」


「何をした!?」


「だから言ってるでしょ?敵に手の内は明かさないって」


ジュディの頭には尖った氷のようなものが貫通していた。


「そうか…、殺るって事だな?てめぇ」


「残念だけど、殺るしかないって事だね。」


俺は短刀を抜いた。近距離戦闘型のフリーズに対して近距離戦闘で迎え撃つ。俺の能力的にも近距離での戦闘は得意とする。だが、ジュディが瞬殺されたのを目の当たりにした今、俺は恐怖でしか無かった。


「いくよ?殺し屋さん」


フリーズの能力『スノーピッグ』は、凍結。触れた物を凍結させる能力、データでは、そう記されていた。

フリーズは手で空を掴んだ。その時だった、その空が凍りついて鋭い氷の短刃を生成し、ジュディに放った攻撃をジェディにも繰り出した。


「2度は通用しねぇ」


俺は放たれた氷の刃を瞬時によけ、右へ一気に旋回しフリーズの後ろへ回った。


「さすがトップクラスの殺し屋だね」


そして、フリーズは、また空を掴み氷の短刀を生成した。


「まさか、空気を凍らせているのか?」


「そうかもしれないね」


その瞬間、俺とフリーズはどちらも行動に移していた。短刀と氷の短刀がぶつかり合い、戦闘が始まった。


カキンカキンカキンッ


「本気出しなよ」


カキンカキンカキン


「離反するだけの力はあるみたいだな、クソ氷野郎」


俺は足を振り上げ、フリーズの顎に的中させた。


「グッ」


フリーズも怯まない。

そのまま、氷の短刀を持っていない左手でまた空を掴み氷の短刀を作り、俺の腹を切り裂いた。


「クソッ!!てめぇ、やるじゃねえか」


「なんで能力を使わないの?殺し屋さん。」


「能力使用を極力せず、お前を殺すことが上からの指示なんだよ!俺の能力は隠密性にかけるからな!!」


「相棒が死んでも、組織が第1優先なんだね。そういう所が僕は嫌いなんだ。」


カキンカキンカキン


「ほう、言ってくれるな!余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」


「もういいよ、戦いはあまり好きじゃないからっねっ。」


その途端フリーズは、飛躍し後ろへ下がった。そう感じた。実際は違っていた。下がっていたのは俺の方だった。俺はそのまま後ろへ転倒した。


「うぐ……、どういう事だ?」


俺は理解した。理解するのが遅かったのだ。今まで戦闘していたのはあくまでも時間稼ぎだったのだ。今まで俺とフリーズが戦っていた場所は凍っていた。そう、フリーズは俺と戦いながら足元を凍らせていたのだ。


「チェックメイトだよ?殺し屋さん」


「…まだだよ…舐めんじゃねぇ!!」


俺は死を悟った、俺はその瞬間、組織や相棒、任務、プライド。そういうものは頭から消えていた。


能力『スーパースピーダー』を発動していた。


生きたい。ただそれだけの理由で。


「まだ死ねねぇよ!!」


俺は手に持っていた短刀をフリーズへ向かって投げた。その短刀はフリーズに向かって放たれたと思いきや、その場から動かない、いや動いているのだが、そのスピードが法則や理を無視し異常なまでに遅く進んでいるのだ。

俺の能力『スーパースピーダー』は、触れているものや触れていた物の速さを一時的に操れる能力。一見、強くなさそうな能力だが、それは違う。


俺はそのまま、フリーズの方へ向かった。自分の細胞、筋肉、周りの空気全ての速さを自分に適応した速さに変え、まっすぐそのままフリーズの方へ


「なっ……!」


フリーズは咄嗟に交わした。だが一瞬の事だった。俺の短刀はフリーズの胸部に突き刺さっていた。

俺は予め投げて速さを調節していた短刀の方へフリーズを誘導するために突撃した。そして放った短刀は急に速さを変えそのままフリーズへ、異常な速度で一直線に放たれたのだ。


フリーズはそのまま倒れた。


「甘いな。能力は思っている以上に使えるがな。記録にあったものよりレベルの高い能力だ。組織にいる時は隠していたのか。」


俺はそのまま、ジュディの方へ向かった。

先程まで任務を共に遂行していた相棒の死を見たが、俺は殺し屋のプロだ。相棒の死というものはこれまでに何度も経験しているので、沸き上がる感情は…


「なかなか使えるやつだったが、これも組織に属するなら仕方の無いことだ。」


バッグから注射器を取り出し、ジュディの右腕に刺した。

そして、その現象はすぐに起きた。

ジュディの右腕がビクビク動き出し、そして変形しそれは身体全てに広がり皮膚、骨、筋肉、細胞、あらゆるものの質量や硬さを無視しうねり爆散した。そして爆散したジュディだったものは溶けて消えていった。


「すまない。もっと早く能力を使っていれば、お前は助かっていたかもしれないな。」


組織にとって俺たちは都合のいい存在であり、不都合な存在でもある。俺たちの存在が世間へ知られると、この世界の常識や倫理観が全て覆るのだ。異能をもった人間達。それはもっとも低コストで世界への火種をばら撒く、"兵器"だ。

その証拠を残さないために、俺たちが死んだ場合、この特殊な"ナニカ"を注射し、証拠隠滅を図らなければならない。


「こちら、ジェディ、応答を願います。」


俺は組織へ、特殊端末で連絡をとった。


「こちら、HW研究社です。キーをどうぞ」


特殊端末からは、機械的な声が聞こえた。


「judy5hw5686」


「キーを確認できました。コアへお繋します。」


俺は安堵していた。死ななかったからだ。今までピンチということは何度もあったが、今回は本気で死を悟ったのだ。任務達成であるが、能力の使用に優秀な相棒を失った。今まで何百もの任務を共に遂行してきた。


「こちらコア。報告をお願い」


コアへと電話が繋がった。電話越しにどうでも良いかのような声色をした女が、こちらの話を聞いていた。


「フリーズの抹殺、及び身体損傷30%以下での身柄確保、達成しました。」


「了解よ、では直ぐに戻ってきてちょうだい。それにジュディは死んだのかしら?」


「フリーズの『スノーピッグ』により、頭部損傷、即死のため、隠滅処置を行いました。」


「あらそう、じゃあ」


そのまま通話は切れた。俺は特殊端末を証拠隠滅として破壊し、短刀が胸部に突き刺さった、フリーズの身柄を持ち上げてビルを降りようとした。だが違和感に気がついた。


「ん?どういう事だ?」


俺はその時に自分の行いを後悔した。俺は死にたくないと思ってしまったのだ。その初めての経験での出来事で、俺はつい興奮し錯乱していたのだろう。任務はその時点で失敗していたのだ。


「殺し屋も、その程度なんだね」


担がれていたフリーズが喋りだした。その途端氷の短刀を俺の首元に突き刺した。


「なに!?うごおおぁ!」


俺はフリーズの身体を投げ出し、倒れた。


「あの組織でも最高の任務達成率の割に、その程度の思考とメンタルじゃ、死ぬのも時間の問題だったよ。」


「なぜ…い…生きている…」


「何故って、だって僕、なんの致命傷もうけてないし?」


フリーズは冷たい目をして俺を嘲笑っている。


「僕の能力、知ってるんでしょ?凍結だよ?凍結。」


「まさ…か、傷口を塞いだのか…?」


「敵に手の内を教えないって言いたいところだけどさ、もう死ぬし、教えてあげてもいいよ。半分正解で半分間違え。」


フリーズは淡々と話している。


「そもそも刺されてすらいないよ」


俺はその時悟った。


「そういう…こ…とか…、胸部自体を…凍…凍結させて…いたのか?」


「ご名答。そもそも君が能力を発動した時点で負けだよ。僕もあくまで組織の人間だったんだし、君たちのこと知らないわけないじゃん?」


「だが、能力は…基本的に非公開なはずだ…何故だ」


「何故だろうね…?もしかして、能力を知れるような人物が僕の味方だったりして?」


全ての疑問に納得がいった。そうだ、能力を知れるような人物は組織のコア、表向きにはHW研究社と名乗っている世界規模の研究会社の中心部の奴らしかいない。


「ふ、ふざけるなよ!!」


俺は傷口から流れ出る血の速度を能力で極力遅くしているが、それも時間の問題だろう。


「じゃあね、殺し屋さん」


その瞬間、またもや不可解な出来事が起きた。


「え?だれ?」


フリーズは、冷たい表情から一変し、困惑したような表情をしていた。


俺とフリーズの間に、急になにかが現れたのだ。


「────あなたはまだ死なせない」


その途端、俺の傷口になにかを注射した。


「私は、あなた達の組織を消す。でもあなた達は消させない。」


「え?組織の人?いや、そんなに早く来れるはずがない。任務達成報告をしているのに来る必要性は無い…」


フリーズは焦っているようだった。


俺は見上げた、目の前には少女が立っていた。黒髪で長い髪の毛を後ろ結びしていて…


「う……だ…誰だ?」


「あなたには名前は教えない。でもDoll、それだけは覚えておいて。」


「ドール…?」


ドール…人形…?

俺は少女の言葉の意味を理解することが出来なかった。すると少女が俺の頭に触れた、その途端、それは起こった。


「な…んだ……!?」


俺の中に、殺し屋として生きている限り、持ちえない感情が溢れかえってたまらなかったのだ。俺はそのまま気を失った。


フリーズはその場に立ちすくんでいる。

先程までフリーズにまとっていた冷気は消失していた。

目の前の少女は、フリーズの方を向き


「コードネーム、フリーズ。人名、氷上レイキ。あなたを迎えに来たわ。」


「は、は?どういうことです?僕はあなたのこと知りませんけど」


「私はあなたの事を知っている。同じ"エトセトラ"なんだから」


────

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