第208話 嫌味ったらしく聞き返す


 その瞬間周囲から雑音が消え、周囲にいる学生の視線は俺へと注がれていく。


 それは少し前までの俺からすればまずあり得ない光景であろう。


 それだけ俺の噂が周囲に広まっているという事でもあるのだが、それと同時にその噂を懐疑的に思っている者が大半である事が野次馬の如く俺へ視線を向けてくる者達の表情を見れば一目瞭然である。


 しかしながら先程考察したように親からキツク注意をされている為か以前であれば誰かしら俺に突っかかって来たのが一人も来やしないので、その点に関してはかなり過ごしやすくなったと言えよう。


 それと同時に【俺に突っかかる事ができない】という事がストレスとして蓄積していっているであろうことも見れば分かるので、恐らく近いうちにその溜まりに溜まったストレスが爆発してしまうだろうと近い未来を予想する。


 まぁだからと言ってやることは、俺の平穏を邪魔する奴は全員片っ端からぶん殴るだけなのでどうでも良いのだが……。


「本当に、カイザル様は人徳が無いのですね……」


 そんな周囲を見渡してヒルデガルドはド直球にそんな事を聞いてくる。


 いったいこの女は何を考えてそんな事を俺に聞いてきたのかと思いヒルデガルドへ視線を向けるとどこか嬉しそうではないか。


 この女は俺が嫌われていると知って何故嬉しそうにしているのか……少しイラっと来た俺はそもそもこの女を護衛だ何だと傍に置いておく理由も無いと突き放そうかと思ってしまう。


 思うだけなのだが度が過ぎればそれも良い案ではなかろうか。


 俺は借りた恩は恩で、仇は仇で返す男なのだ。


 因みにりぼ払いをご利用なので長い付き合いになるだろう。


「俺が嫌われている事がそんなに嬉しいのか?」


 なので俺はとりあえず最初のジャブとっして嫌味ったらしく聞き返す。


「いえ、違いますっ!! ……ち、違わないけど……違いますっ!!」

「いや、どっちなんだよそれ……」

「えっと、その……もしそうなら私がカイザル様を独り占めできるなぁーと……何ならそのまま拾ってやって幸せな家庭を築いてもいいのかな、とかお、思ってないですけどっ!! ですけど似たような感じですっ!!」


 それもう全部言っているようなものだろうと頭を抱えたくなるのだが、とりあえずヒルデガルドはただ単に窮地な所を助けられた故に好意を抱いているだけだろう。


 年頃の女というのはそういう生き物であり、ある種のはしかのようなものだろう。


 年頃の女の好いた惚れたなど真剣に取り合うだけ無駄な時間なので放っておくに限る。

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