第70話 生きて帰れると思うなよ

 しかし、その前に私はやらなければならない。


 この屈辱を、リリアナ様に土下座をさせて事を、皇帝陛下に噛みつき、忙しい皇帝陛下の手を煩わせただけではなくこの私に土下座をさせたのだからそれなりの報いは受けてもらう必要があるだろう。


 リリアナ様がカイザルのせいで歯向かう事が出来ないのであれば私がリリアナ様の代わりにカイザルのクズをボコボコにしたうえでリリアナ様の前に連れてきて土下座からの謝罪をさせてやる。


 それを実行するためにはガイウス皇帝陛下がカイザルを殺してしまう前に行動に移さなければならないので、できる事ならばそれこそ今日アイツをボコボコにしたほうが良いだろう。


 恐らくガイウス皇帝陛下は明日にもカイザルを捕まえに来るであろうし、その前に私がカイザルを捕まえてガイウス皇帝陛下の前に突き出してやってもいい。


 カイザルごときであれば五歳の子供を捕まえるよりも簡単であろうし、手加減してもボコボコに出来るだろう。


 であれば今日やらない理由は無い。


 そして周囲でまだリリアナ様と私がカイザルに土下座した事について指をさしてきながらあれやこれやと憶測だけで言いたいことを言っている野次馬どもにも黙らせてやる。


 私やリリアナ様に対してあのような態度を取って生きて帰れると思うなよ、カイザル。





 やはりリリアナやダグラスたちに怯えながら隠れるようにして過ごす必要が無くなったというだけでかなり学園生活が過ごしやすくなったと思わざるを得ないほど快適であると言えよう。


 あいつ等がいかに今までストレスだったかというのが分かる。


 今では逆にリリアナやダグラスが俺から避けるように学園生活を過ごしているようで、あんなに見つからないようにと行動していても結局見つかり、水魔術を頭からぶっかけられたり、炎魔術でズボンのお尻部分を燃やされたりと毎日のように遭遇してはされていたのだが、今では隠れていないにも関わらずまったくといって良いほど遭遇しないところから見てもあいつ等の方が隠れている事が分かるし、今まであいつらは出会わさに過ごしていた俺をわざわざ探しだしてまで嫌がらせをしていたことも窺えてくる。


「おい貴様っ!!」


 だというのに、せっかく手に入れた平穏な学園生活を台無しにしてしまう声が俺の耳に聞こえて来るし、その声は俺に向かって話しかけてきているような気がするのだが無視でいいだろう。


 まだリリアナが俺を呼び止めるのであれば分かるのだが、腐っても公爵家である俺に対して無礼な口調で呼ぶような無礼な奴の相手をわざわざする必要も無いだろう。 無視だ無視。

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