第11話 遅すぎて欠伸が出そう

「え? 先生が? 俺を殺すって? 冗談にしては笑えないな」


 だからこそ俺は心底馬鹿にしたような感じでシシル先生へ言い返す。


 俺はゲームのキャラクターで転生したと知ったあの時、強く思ったのだ。


 俺の事を邪魔する奴は誰であろうと後悔させてやると。


 その記念すべき第一号は弟になると思っていたのだが、どうやらそれは間違いだったようである。


 流石にここまでコケにされてはいそうですかと無かった事にはできないし、やられたら倍返しでお返ししなければならないだろう。


 強者ゆえの『下のものは刃向かってこない』と言う傲慢な考え、無駄に肥大したプライド、自分こそが絶対的に正しいという凝り固まった思考、その他諸々をぶっ潰してあげようではないか。


 あぁ、今から目の前にいるプライドの塊であるシシル先生がどのような表情をするのか楽しみで仕方がない。


「あ? 今貴方、私の事を馬鹿にしたの? 人族ごときが? エルフであるこの私を? 絶対に許さない。 許してと懇願しても許そうはずがない。 その魂、奥深くまでエルフである私を馬鹿にした事を後悔させて、尚且つ私の奴隷にした上で捨ててあげる」


 そして俺の予想通りシシル先生は真っ白い素肌を真っ赤に染まるほど怒り始めた。


 なんというか、こうも俺の予想通りに動いてくれると逆に馬鹿なのでは? と思ってしまう。


 やはり、普段の冷静なシシル先生であれば俺が何かを企んでいるという事は簡単に見破る事ができたのであろうが、力を持ってしまうとそういう思考回路も鈍ってしまうのだろう。


 見下した相手に少し馬鹿にされただけで周りが見えなくなり頭の中が怒り一色になるのだからそう思われても仕方がないと目の前のシシル先生を見て思う。


 そしてまさか俺が心の中で心底見下し初めているとは知らずに無詠唱で魔術を構築して行っているのが分かる。


 あのマナの感じからしてバインド系の魔術であろう事が窺えるのだが、そんな事よりいくら無詠唱といえども遅すぎて欠伸が出そうになるほどである。


 このままカウンタースペルを行使してシシル先生が行使しようとしている魔術の発動を妨害ないし強制的にキャンセルさせてもいいのだが、こうも遅いと跳ね返すのもアリだなと思えてくる。


 ゲーム内のPvPであれば相手が出す魔術を確認してから跳ね返す系の魔術を行使するのは至難の技であるのだが、どの魔術を使おうかなと悩むことができるだけの猶予がある時点でいかにシシル先生の詠唱時間が長いかというのが窺えて来る。


 そのことに気づいていないのは本人だけである。

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