めでたしめでたし!(終わってない)

「アイラさん着いてこねぇのかぁ……」

「ねぇ」

「仕方ないだろう、彼女もまだ気持ちの整理が着いていないだろうからな。滝澤のように性別が変わっても平静で居られんのだ」

「ねぇ!」

「あのヒト、強いのに」

「ねぇ!!」

「あれだけ強けりゃ一人でもやっていけそうな気がするけど、やっぱああいうヒトは……」

「ねぇ!!!」


 のんびり並んで歩く三人にナスカは叫んだ。


「アンタ達何か無いの!?私について!戦い終わった後からノータッチなんだけど!」


 その話は後で、と置いておいた話は完全に忘れさられ、一同は再び旅路に着いていた。その割には女将への連絡は済ませているのであるからナスカはキレざるを得ない。


「ナスカの正体が何だとか、正直あんまり気にならないぜ?」

「そういう話じゃないの。あんまり口外して欲しくは無いんだけど……」

「では止めておけ」

「もー!!!」


 店主に言われた最大限の気遣いをしっかり間違えていた。尚ルナは気遣いの意味が分からないのでだんまり。


「せめてアンタ達には知っといて欲しいの。騙してた訳じゃないんだけど、私はアルラウネじゃない。ワイヴァーンと同じ、竜人よ」

「へぇ……」


 滝澤の塩な反応がナスカの逆鱗に触れた。地面から現れた土の手が滝澤の身体を摘みあげる。


「いや、違うんスよナスカさん……ここんとこ衝撃の連続でいよいよ容量オーバーというか……」


 実情、その通りである。滝澤は数日間で数多の衝撃の事実に晒され過ぎた。人間、そう簡単に情報を処理できないものである。


「そう……」


 滝澤を持ち上げたまま、ナスカは首を後ろに向けた。ルナもヴィルも勢い良く首を横に振った。


「あ、そう……じゃあもういいわ。今までは隠してた分上手く戦えなかったけど、これからはアンタ達を信頼してバンバン前に出るから」

「ええ……」


 竜種は希少生命体である。存在することを知られればガラスのように生命を狙う者が現れるのは明白だった。それでも尚、ナスカは正体を明かしたのである。


「とりあえず下ろしてもらっていい?」

「はいはい」


 ポイッと雑に下ろされる滝澤。地面に転がった彼の耳に小さな無数の足音が聞こえてくる。


「敵襲!ゴブリンの群れだ!」


 総員、戦闘態勢。小さなゴブリンと言えど、いや、だからこそ脅威なのだと三人はモンスター界の教えとして、滝澤はラノベで知っていた。


「囲まれる前に仕留めるぞ!」


 ヴィルが叫ぶ。とはいえ、狡猾な彼らは確実に勝てる状況を整えていた。後衛のゴブリン達が背中に光る何かを隠しているのを滝澤は見る。明らかに嫌な予感がした滝澤は木刀を手放し叫んだ。


「ナスカ!土の壁!」

「はいはい!」


 間一髪、現れた土の壁が一同を矢の雨から守った。恐らく神経毒に近い何かが塗られていたのだろうが、無機物相手では何も起こらない。


「狡い事しかしねぇなおめぇら!木刀頼んだ!」


 誰が言うか。滝澤の号令で木刀は動き出し、後衛のゴブリン達の間を駆け抜ける。前衛も後衛も混乱に包まれる中、滝澤達は一気に畳み掛けた。


「邪魔よ!」


 ナスカは土の手でゴブリン達を一掃する。アタッカーに転身しながらも、土壁による矢よけ等、サポートも怠っていない。ようやく本領発揮であった。


「ひれ伏せ!」


 ヴィルの声と共にゴブリンは一斉に崩れ落ちる。〈夢幻封影〉の前では彼女と目を合わせた者は皆幻影へと囚われる。


「それダメー!」


 背後から放たれる矢は全て風によって的を外す。空を舞うルナに矢が当たることは無い。


「どりゃぁっ!」


 各々が持ち味を生かす中、一方の滝澤はバッティングセンターかの如くゴブリンをゴブリンにぶつける荒業を繰り出していた。

 滝澤達を囲っていたゴブリン舞台は完全に壊滅していた。しかし、撤退を決めたゴブリンの前に大きな身体が立ちはだかった。


「ヴィル、なんだアイツ!?」


 鱗に覆われた巨体、爬虫類特有の鋭い目に睨まれてゴブリン達はその場でひっくり返り、死んだフリをする。


「バジリスクだ。全員動くな、獲物にされるぞ」


 全員がゴクリと息を飲み、オブジェクトのように固まる。対熊のよう、的にならぬようにゆっくりと隙を読み、徐々に後退する。


「……おや、まだここに居たのですか」


 ひょっこりと蛇頭の横から顔を出したのはアイラだった。


「「え?」」

「バジリスク、食事の時間です」


 ゴブリンの捕食を始めたバジリスクからアイラは飛び降りる。彼女はメイド服ではなく、黒いローブを身にまとっていた。


「てっきりもっと進んでいるものだと思っていましたが、雑魚相手に足止めを喰らっていたとは」


 アイラは余裕の笑みを浮かべている。何処か吹っ切れたようにも感じられた。


「アイラさん、もし良ければ俺たちと……」

「ええ、言われなくとも。全員鍛えがいがありそうです」


 指南役、就任!


「いいの?おそらくだけどろくな目に遭わないわよ」


 およそろくな目に遭っていないナスカが忠告するが、アイラは笑顔を崩さない。


「ええ。承知しておりますよ。未来の魔王を育てたとなれば、ゲンガにも誇れるでしょう。それに、竜種も守らねばなりませんしね」

「うっ……」


 当の竜種、沈黙。ナスカが竜種だと知っている以上、突き返して話を広げられるのも困るのだ。


「それは心強い。これで我々は負け無しだな」

「いえ、私に負けます。これから毎朝、一対一で私と戦ってもらいます」

「なにィ!?」


 拳を鳴らすアイラにヴィルは恐怖する。


「大変だなぁ、オレハボクトウデモミガイテ……」

「貴方もです」


 蛇に睨まれたカエルの如く、冷たく鋭い視線に滝澤は震え上がる。逃げられなかった。


「どうせ皆やるんでしょ。よろしくお願いするわ、師匠センセイ


 飲み込みの早いナスカにアイラは微笑む。


「ええ。立派な魔王軍になれるよう教育します。よろしいですね?」

「「はい」」

「……じゃあ、アイラさんも仲間になってくれた事だし、改めて。いくぞー!」

「「おー!」」


 新たな仲間を加え、一同は王国目指して進む。滝澤の旅路は、まだ何の目的も達成していない。しかし、キリが良いというしょうもない理由で、物語は一時閉幕。彼らの旅路は、まだ続く─。




……余談ではあるが、滝澤の体は翌朝には元に戻っていた。理由は当の本人にも分からない。

「もっと色々したかったのになぁ」と残念そうに呟いた彼を土の手が殴り飛ばしたのは言うまでもない。



-つづく?-

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転生×木刀×√魔王〜元々強い俺が転生するんだから当然最強だよな!?〜 篁久音 @TakamuraQ-on

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