波乱の予感
滝澤の前には裸の
辛うじてタオルで身体は隠れているものの、他人よりツヤが目立つ
「なるほど、繋がっているのか。ならば最初から一緒に入ってしまえば良かったのにな。なぁ滝澤?」
温泉に入るためか、横の髪を後ろでまとめたヴィルは普段とはまた違った優美さを纏っていた。
「おう、そうだな。それは確かに」
ヴィルを意識すればするほど胸の鼓動が速くなるのを感じた滝澤は首をブルブルと降って意識を外に飛ばす。
「滝澤も一緒にお風呂だ〜!」
駆け寄ってきたルナに苦笑いを浮かべながら「転ぶから走るなよー。」と父性あふれる声掛けをした滝澤だが、その実心の中はどうしようでいっぱいだった。
と、言うのも一応、滝澤にも自制心というものは存在するのだ。こんなエロゲのような状況に置かれたからといって、節操の無い行動を取っていればいずれ何かしらの裁きを受けるだろう。
「よし、折角の機会だ。私たちで滝澤の体を洗ってやろう」
そんな心に急転直下。ヴィルの発言が突き刺さる。
「……センキュー」
滝澤、完全敗北。もはや気にしないしか方法が無い。
ゴシゴシ…と、引き締まった滝澤の体を二枚の布が擦り、一日分の激闘の汚れを落としていく。
「滝澤の体、私より鍛え上げられているな。一体どんな鍛錬を詰んだらこんな体になるんだ?」
「腕立て、腹筋、その他諸々。こればっかりはやってもらった方が早い。後で教えてやるよ」
滝澤の説明にピンと来なかったらしいヴィルに滝澤は教授を約束する。と、ルナが前の方に伸ばした手を優しく(ゆっくりとは言ってない)掴む。
「ありがとうルナ、後は自分で洗うよ。ヴィルもありがとう、おかげで綺麗になったぜ」
滝澤は一切の怖さを感じさせないように努めて笑顔で言った。
突如様子の変わった滝澤に首を傾げるルナだが、何を説明されることもなく優しく手を退けられてしまう。
実は、実はだが滝澤の滝澤は極度の恥ずかしがり屋なのだ。ここで出てしまえば緊張で倒れ、二度と立ち上がれなくなってしまうだろう(隠喩)。滝澤もそれを肌で感じ取っているので登場を避けたという訳だ。
「そ、そうか…じゃあルナは私が洗ってやろう」
もはや変を通り越えて気持ち悪い滝澤からヴィル達は引き気味に離れていく。
「(生命の危機、回避……!)」
彼はより大事なモノを護る為に大事なモノを犠牲にしたのだ。褒めてやらずして何とする。
とにかく、落ち着ける場所へ移動しようと滝澤は湯船に浸かる。
「はぇ〜……すっげぇ。超キレイ……」
森の中に建てられているだけあり、浴場の窓から覗く景色は有用たるものだった。滝澤も並ぶ木々や宙を自在に飛び回る鳥たちに魅了される。
と、そんな黄昏れている隙だらけの滝澤に背後から覆い被さった影。
「なぁ、滝澤。私が…好きか?」
「なんだよいきなり。……俺は好きだぞ。あ、仲間としてな?」
背中に圧力を受け、頬を赤らめながら答えた滝澤だが、ヴィルは付け加えた一言に頬を膨らませて両腕を滝澤の胸の前で交差させた。
「妻としてはどうなんだ?」
甘く震わせるように囁かれた言葉に滝澤の心臓が跳ねる。固唾を飲んだ滝澤は静かに息を吸い、口角を上げて吐き出した。
「ああ、好きだよ。ルナも娘みたいで好きだし、ナスカも……うーん、好きだ!」
その答えを聞いたヴィルは滝澤から離れて大笑いする。一人で湯船に浸かっていたルナもその衝撃で跳ねた水飛沫に目を瞑る。
もはや何を隠す気もないヴィルに滝澤は振り向く事ができない。
「ハハハハッ!流石、滝澤らしいな。私も、ルナも、ナスカも、全員を等しく愛そうなんて」
滝澤のハーレム生成宣言は再び此処で成された。それを聞いた三人はその大胆さに驚きと安心を憶える。
「そうだ、私が妻でルナが娘ならナスカは滝澤の何なんだ?」
滝澤はその質問にうーん……と、数分考えた挙句、「妹…?」と疑問形で答えた。
その刹那、ガタンと勢いよく扉が閉められる。その音の正体に気づき、湯船から飛び出した滝澤だったが、ヴィルに引き止められた。
「もう少し温まっていっても良いだろう」
「いや、俺は……」
これが等しく愛する者の宿命。多数と関わることが出来る代償に個人と関わる機会が少なくなってしまう。
「(……後で謝っておくか)」
仕方なく滝澤は湯船に浸かり直す。いまいち安らげない中、滝澤は二人に挟まれて体を温めた。
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