弐章-翼と角と鱗
大誤算いつもの
「んで、雨か……」
先程までは雲一つない晴天だったが、滝澤が「こんだけ晴れてるならこの先安泰だな!」と口走った瞬間に激しい雨が降り出したのだった。これは流石に不安すぎる。
「これじゃ動けないわね……ちょっと待ってなさいよ。確かここら辺に生えてるから」
そう言ったナスカは土の手を雨避けにしながら森の奥へと駆けていった。一人残された滝澤は物思いに耽る。
「(俺はこの世界に来てすぐに魔王になるなんて言っちまったけど、元の世界に戻る方法も見つけなきゃいけない訳だよな。喚ばれたからにはまず魔王になるしかないが)」
考えれば考える程こんがらがってくる。問題は山積みだ。その幾つかは滝澤が原因だが。
「滝澤、これ使って!」
息を切らしながら走ってきたナスカの手には二本の大きな葉の付いた植物の茎が握られていた。ト〇ロのアレである。
「何これ?漫画やアニメでよく見るけど」
「リントヴルームって言うのよ。これなら雨に当たらなくて済むわ」
思ったより強そうな名前をしていた。
降りしきる雨の中、二人は森の中を進む。
「川とか凄いんだろうな……」
ふと川を横目に見た滝澤。その目に一瞬人影のようなものが写った。
「あそこ、誰か溺れてないか!?」
「え!?違うってあれは!」
ナスカの静止を振り払った滝澤は荷物と脱いだ上着をその場に傘ごと落とし、川の中へと飛び込んだ。
「この川!見た目より汚いぞ!?飛び込まなきゃ良かったかも……!」
後悔してももう遅い。救うと決めたら救うのだ。濁流の中を進む滝澤はなんとか人影の下まで辿り着いた。
「もう大丈夫だぞ……って木ぃ!?待って、この川思ったよりふk……」
ちらりと親指を立てた手が見えたが最後、滝澤の姿は抱き寄せた木と共に濁流に呑み込まれて見えなくなった。
「たーきーざーわー!!」
ナスカの叫びが森の中に木霊した。
「オエェ……気持ちわりぃ……」
滝澤が目覚めたのは川辺の大きな平たい石の上。近くには誰も居ない。
「うーん、またかぁ……」
転生時と似たような状況にゲンナリする滝澤。どうやら別の世界ではなく、ただ川に流されて来ただけのようだ。その証拠に川岸にあの人っぽい木が引っ掛かっている。
「助けてくれたのはナスカか?その割には随分流されたみたいだけど……」
川幅の太さの違いからかなり下流に来たことが分かる。
「起きた?」
バサバサという翼の音が聞こえて滝澤が上を見上げると、枝の上に白髪の少女が立っていた。それも、ハーピィの。
「や、やぁ……(か、カワイイ!仲間にすべきだ!そう、今すぐに!)」
滾る下心を抑えて少女を見つめる滝澤。少女の方も滝澤を見つめ返した。
「お腹空いた?」
「なんでそうなる!?確かに空いてるけど……」
少女は独特の思考回路を持っているようで、滝澤の返答を聴くと再び森の奥へと飛んでいった。
「なんだかよく分からないけど、あの子は俺を警戒して無かったな。やっぱりモンスターにも人間嫌いじゃないやつがいるんだな」
などと安堵していた滝澤のすぐ近くから重々しい足音が聞こえてくる。
「今度は何だ……!?」
滝澤は近くの岩陰に身を隠した。
「ニンゲンの気配が一つ……何処に居る?出て来い侵入者よ」
「(そう言われて出てくるやつが居るかっての……!)」
寂とした森の中で響いていた足音は滝澤が隠れている岩の前で止まった。
「やはり気のせいか」
足音は再び離れていった。助かった…と滝澤は安堵の息を吐く。が、それが不味かった。
「分かった。そこだな?」
滝澤の背後の岩が砕かれ、丸見えになった滝澤は心臓が止まりそうになる。
「(滝澤家秘技、擬死[死んだふり]!)」
わざとらしくパタリと倒れる滝澤。実際は秘技でも何でもない。
「(神様助けてぇー……!)」
「ふん、忌々しい……」
滝澤の体は大きな手のようなものに掴まれ、持ち上げられた。
「りゅ、龍!?」
滝澤を摑んでいたのは巨大な緑の鱗を持つ四肢を持った大トカゲ。即ち、龍である。
「待って、待って待って、俺チガウヨ!モンスターの敵ジャナイヨ!」
「モンスターの敵ではないだと……?ほざくなニンゲン。そう言ってこのワイヴァーンを欺いて襲うつもりであろう。去れ、愚か者!」
ワイヴァーンは滝澤の身体を宙に投げた。そして深く息を吸う。
「待って、おじいちゃん!」
ワイヴァーンの後ろ足にハーピィの少女が抱きつく。一瞬驚いたワイヴァーンの動きが止まった。
「fouuuuuuuuuu!」
ワイヴァーンの口から小さな竜巻が吐き出され、滝澤の身体は今度は竜巻に呑み込まれて少し離れた森の中へと吸い込まれていった。
「うへぇぇぇぇぇぇ」
完全にワイヴァーンの視界から消えた。ワイヴァーンはハーピィの少女の方を見る
「ルナ……」
「おじいちゃん、あのニンゲン、殺しちゃったの?」
ルナの純粋無垢な瞳がワイヴァーンの瞳を見つめる。
「……死んではいない。ルナ、ニンゲンはな、産まれたときからモンスターの敵なんだ」
「あのニンゲン、悪くないよ」
「たとえ今は悪いニンゲンでなくともこの森に入ってきた事が問題なのだ。お前は気にするな。そのうち嫌でも分かる」
シュルル……と、老人の姿になったワイヴァーンはルナの頭を軽く撫でると森の奥へと歩いていった。
「あ、剣……忘れてる」
滝澤の木刀を掴んだルナは滝澤を探して森の中へ羽ばたいていった。
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