かのじょとせんぱい

バブみ道日丿宮組

お題:とんでもない誤解 制限時間:15分

 大学が終わって部屋に帰ってみれば、

「おかえり」

 彼女が台所で夕食の準備をしてた。

「……ただいま」

 ちょっと気まずかった。

 忘れてたわけじゃないけど、彼女がくることは予想できてた。

 そのはずなのに、

「ここが君の部屋かぁ」

「せ、先輩!?」

 家主を押しのけて先輩はぐいぐいと部屋に入ってく。

「それで君が恋人ちゃんか。んー、かわいい」

「え、えっと、やめてください」

 秘境はここにあったのかというぐらいの光景ができあがってた。

 かわいいかのじょと、うつくしいせんぱい。

 それが抱き合ってるのは、もはやアートに近い。

「浮気?」

 先輩の拘束から逃れようとして諦めた様子の彼女は、僕を見る。

「違うよ。大学の先輩」

「先輩? やっぱり浮気?」

 なんで信じてくれないんだ!

「恋人ちゃん、それは可愛そうだと思うな。愛が重いっていうか、そのね」

「先輩はいい加減離れてもらいますか! 彼女が嫌がってます」

「嫌がってるかなぁ?」

 すりすりと頬を合わせる。

 僕だけの彼女なのに、汚された気分だ。

「君もやりたければすればいいのに」

「……恥ずかしいじゃないですか」

 数秒間の無言タイム。

「それでこの人は誰?」

「だから、大学の先輩」

「ふーん」

 ジト目で返された。

 もしかして信用されてない?

「あたしといるのは相当レアな人だからね」

 街の人の視線を集めるのが個性ともいえた。

 隣にいれば、当然自分も視線を浴びる。そして冴えない男だなと評価され、どうして一緒にいるんだと黒い感情を向けてくる。

「浮気じゃないんだよね?」

「違うよ。先輩は先輩。トイレいきたいっていうから……」

 近くだった僕の部屋に連れてきた。

「そうだ! トイレ借りるね!」

 騒々しい音をたててトイレに入った先輩。

「……わかってるよ」

 再度ジト目になった彼女の視線を受けつつ、部屋の奥へと向かった。

 トイレの音を聞くなというやつだ。

 散々彼女の音は聞いてるのだが、それはいいのだろうか。


 トイレから出ると、先輩は彼女に学校での僕の話をしてくれた。

 どういったいきさつで知り合ったとかなんとか。

 それは高校生である彼女には知り得ない情報だった。

「じゃぁ私も大学に入ったら先輩と会うの?」

「そういう場所じゃないけどもね」

 会えないことはないだろう。ただ講義は当然同じものは受けられない。

「じゃぁいい」

 なんだか彼女は嬉しそうだった。

「お昼は一緒にしようね」

「あたしも……」

「嫌です」

 半笑いだった。怖い。

「トイレ終わったのですなら、帰ってもらえますか。ここは彼との空間なので」

「おぉ、こわ」

 両手を広げた先輩は、だいぶコメディチックである。

「じゃぁ蹴られる前にお暇しましょうかね」

「送りましょうか?」

「いや、それされたら刺されるからね」

 玄関まで見送ると、手を振って先輩は帰ってった。

「……どうした?」

 近づいてきてるのはわかったが、そのまま抱きしめられるとは思ってなかった。

「……なんでもない」

「そっか」

 そういうときもあるかもしれない。

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かのじょとせんぱい バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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