梅雨日和


「美鈴」


 ちょいちょいっと手招きをして私を呼ぶ。彼は私が好きな人。理系のクラスのみのるくん。


「実くん、どうしたの?」

「はい、これあげる」


 手に乗せられたのは、紙の切れ端。きっちり正方形に折りたたまれてる。


「なにこれ、ゴミ?」

「ゴミか宝石かは美鈴が決めるんだよ?」

「んー?」


 紙切れが、ゴミか宝石だなんてさ、そんなのゴミに決まってる。実くんはたまにぶっ飛んだ発想をする理系の男の子。


「どうしても解らなかったら、答えを教えてあげるから、ちゃんと考えてきてね?」

「わかった!」


 紙をひらくと、真ん中に綺麗な字で『ほ』とだけ書いてある。私の頭はぐるぐるぐるぐる、回ってる。


「んん?!」


 解せぬッ!

 考えるもなにも、、しか書いてないなんて!


「あのさ、実くん……」


 名前を呼んだ時にはもう彼の姿は見えなくて。

 ピコンと私のスマホが鳴る。そこにはこんな文章が。


「猶予は今日の放課後まで。放課後すぐに実のところまで」


 姿のない声だけが、私の頭をこだまする。今はお昼休みだから、タイムリミットは2限分。


、ってなんだ……?」


 補欠? ホクロ? 法? うーん? しりとりなんてしてたっけ……?

 授業なんて上の空。の意味が解らない。ほ? ほ? ほほほほほ?


 時間は有限。チャイムは規定の回数なり終わり、今は約束の放課後です。実くんはどこにいるのか、まずは生物室に行ってみよう。

 ガラガラと扉を開けると真っ先に飛び込んできたのは、艶のある茶髪の男の子。


「あ、美鈴ちゃんじゃん!やほ!」

「祐介くん。や、やっほー? えっと、実くんは……?」

「実ならあそこで実験してるよ」


 顎でさされた方角には、確かに彼がいるのでした。


「あ、来たんだ! ということは解ったってこと?」

「わっかんないよ!」


 いかにも意地悪で、でも心底楽しそうに笑う実くん。彼のことだから、何か立派な理由でもあるんだろうな。なんだろう?


「それは、ボクから美鈴に送る言葉なんだけど……」

「え? うぅん、って言われても……」


 祐介くんが何故か実くんを茶化しに行く。


「照れてれるなよ~」


 実くんは、雄介くんへ「コラ」と一喝すると、私の方へ振り返る。少し頬が赤い気がするのは、私の気のせいだろうか。


「ほの字」

「ほの字?」


 頭に沢山ハテナを浮かべて、実くんの目を見つめる。恥ずかしいのか、実くんは目を逸らして耳を赤くする。


「惚れてるってこと……」

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梅雨日和 @tsuyuhiyori

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