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 顔合わせが終わった翌日から、カゼミさんの授業は始まった。


「東語は完璧なようですから、先にこの国のことについて勉強しましょうか。亜人――ええと、亜人は亜人のことを人間、というのでしたね。『人間』のことに関しては、ラトソールとほとんど変わりませんが、ラトソールにほとんど人間――『獣人』はいませんでしょう?」


 わたしはその言葉にうなずく。わたしはあの国では変人――というか、頭がおかしい人扱いされていたから、必要最低限以上の外出を許可されていなかったから詳しくは知らないが、でも、少なくとも城や屋敷、馬車の窓から見える街並みの中に獣人を見たことは一度もない。本物の獣人を見たのはイタリさんが初めてだ。

 それより前は、そういう人種がいる、と姿絵を見せられて教わっただけである。


「アルシャさんに合わせて、今後は亜人側の表現で話を進めますわ。『人間』と比べて『獣人』は同種であることをなにより重要視します。それは『人間』を差別する、というよりは、非常に仲間意識が強い、ということですわ。貴女も身に覚えがあるでしょう?」


 『継ぎ子』のことか。獣人の中には生まれ変わりが存在し、前世の知識を持ったまま生まれる者のことを『継ぎ子』と言うんだったよね。


「『継ぎ子』のこと、ですよね?」と聞けば「そうです、よく覚えていましたね」と褒められた。兄妹揃って褒めて伸ばす姿勢らしい。まあ、褒めて伸ばすタイプの教育をする兄に憧れて教鞭を執るようになったのなら、そうなるか。


「『人間』からしたら、その程度の繋がりは希薄……と思われるかもしれませんが、『獣人』からしたら、このくらいの繋がりでも十分、助け合うべき同胞になりえます。イタリ様でなくとも、大抵の『獣人』なら、貴女を助けたと思いますわ」


 ……わたし、本当はその『継ぎ子』ではないんだけどね。前世の記憶を丸ごと引き継いでいるのは事実だが、前世は獣人じゃない。

 イタリさんはどうにも、わたしが東語だけ覚えていて、他の記憶は曖昧な獣人の記憶を引き継いだ『継ぎ子』だと思っているようだけど。


「裏を返せば、同胞がやられた仕打ちは『獣人』全員が敵に回ると考えてくださいませ」


 カゼミさんの続いた言葉に、わたしの思考は彼女の授業に戻ってくる。


「なので、『獣人』が納得するような正当な理由なしに害を与えることは避けた方がよろしくてよ。『獣人』が納得するような、というのが大きなポイントですわ」


 もちろん、そんなことをするつもりはない。イタリさんはこんなによくしてくれるし、この国の人はわたしに良くしてくれる人ばかりで、恩を返そうとは思うけれど、仇を返そうとは思わない。

 ただ、人間と獣人の価値観の違いで齟齬が起きる可能性は否定できないけど――……実は本当の『継ぎ子』じゃない、というのを黙っているのは、彼らを騙していることに相当するんだろうか。

 でも、わたし、放り出されたら生きていけないし……。


 絶対にばれてはいけないと、再度、強く思わせられる。

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