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 結局、指輪は断り切れず、わたしの胸元に、チェーンに通ってネックレス化して輝いている。

 今でこそ服の下にしまっているが、最初は外に出していたので、ちらちらと視線を感じたものだ。視線を感じるから服の中にしまったとも言う。


 そうだよね、ただの客人なんかが代々伝わる婚約の指輪をネックレスに通して持ってたら皆見るよね……。今からでも返せたりしないかな、これ。

 なんて、無理だと分かり切っているのだが。


 今日はわたしに勉強を教えてくれる、という人との顔合わせである。のだが。


「カゼミ、と申します。よろしくお願いしますね」


 カゼミ、と名乗った人物は、ヒスイ先生そっくりな人だった。いや、似ているのは顔だけで、獣人の耳がついているし、女だし、別人なのは分かるんだけど、ヒスイ先生が女になったらこんな感じなのかな、という見た目をしている。


「アルシャ・ソルテラと言います」


 顔面をまじまじと見るのは失礼だろうか、と思いながらも、挨拶をする。……いや、まあ、どうしても視線がそっちに行ってしまうんだけど。


「カゼミはヒスイの妹だ」


 立ち会っていたイタリさんが教えてくれる。よっぽどわたしの視線が彼女の顔に注がれていたのだろう。

 でも、妹。成程、確かにそれなら納得……ではあるけれど、ヒスイさんって人間だったよな。でも、妹さんは獣人にしか見えない。


「あら、お兄様と知り合いなんですの?」


「え、ええと……この国に入るときに少し話をして、言葉も教えていただきました」


 わたしが答えると、カゼミさんは目をきらきらと輝かせ始めた。


「まあまあ、なんと幸運なこと。お兄様、教えるの上手でしたでしょう?」


 確かに。根気強く、優しく教えてくれることは大抵の人には出来ない。以前のわたしの家庭教師の面々を考えると。最後まで付き合ってくれたのは一人だけ、ほとんどは途中で投げ出すか手が出る。


 彼女の言葉に同意すると、「わたくしもお兄様のように人へ物を教えられるように教師を目指したんですのよ」と教えられた。成程、お兄さんが大好きで尊敬しているタイプの妹か。


「わたくしが教えるのは共用語とこの国のマナーと常識、と聞いています。これから頑張りましょうね」


 その言葉に、わたしは大きくうなずいた。早く知識を身に着けて、イタリさんに恩返しするのだ。

 そう言うと、何故か「あらまあ」とカゼミさんが呟き、ちらっとイタリさんの方を見た。


 その視線はなんとなく、同情している人のものに見えたけど……気のせいだよね?

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