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 門から、再び馬車に揺られてたどり着いた場所は、それなりに広い館だった。それなり、とは言うものの、比較対象がわたしの住んでいた屋敷である。別邸、と言っていたからあれより小さいのは当然なのだが。

 でも、変にごてごてと飾られていない分、上品に見えて、すごく高いお屋敷に見えた。


 わたしたちが馬車を降りると、結構な数の使用人らしき人たちが出迎えてくれる。……前言撤回、それなり、なんてクオリティじゃない。わたしが家に住んでいたころ、こんな人数で出迎えて貰ったことはない。わたしが疎まれていた、というのもあるかもしれないけど。見た目の印象以上に、この屋敷は大きいのかもしれない。


 出迎えてくれた使用人さんは、獣人と人間が入り交じっている。でも、イタリさんが獣人だからか、八割くらいが獣人だ。


『おかえりなさいませ』


『彼女が昼間に伝達した客人だ。部屋に案内し、湯に入れ、怪我の手当をしろ。そのあとは食堂へ連れてくるように』


 イタリさんは使用人の一人に声をかけていた。明らかに一人、歳を取っているメイドだ。メイド長、とか、侍女頭、とか、そういう役職付の人だろうか。

 ええと……部屋、湯、怪我……風呂に入れて怪我の手当をしろ、ってことかな。単語は聞き取れるものの、文章となると少し難しい。


『シノとメノ、二人はしばらく彼女について働くように』


 それから、獣人のメイドと、人間のメイド、一人ずつにも声をかけている。


「人間の方がシノ、亜人の方がメノだ。君がこの屋敷にいる間のお付メイドになる。シノは東語が分かるから、困ったら頼るといい」


 わたしの方を振返って、イタリさんが言う。東語が分かり、会話が出来る相手と、人間として種族が同じ相手。……すごく、気を使われいる。


「部屋を見てから湯あみと怪我の手当をした後、食堂にこい。そのときに食事にする」


 ……言われてみれば、わたし、今、結構汚いよね? すっかり忘れていたが、馬車から引きずり降ろされて思い切り地面に倒れ込んだはずだ。ある程度払いはしたものの、汚れているに違いない。

 なんだか途端に恥ずかしくなってきた。こんな状態で言葉の勉強に夢中になっていたとか、わたしがソルテラ家の長女だって、信じて貰えるんだろうか……。


 わたしは思わず、スカートの裾をはたいた。長いこと荷馬車に乗って、そのあと門に併設されていた、事務所というか休憩所みたいな場所にいて、また馬車に揺られて。今更スカートをはたいてもなんの意味もないのだが、つい。

 自分の汚さを思い出してしまって、今、すぐにでもお風呂に入りたくなった。

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