片思いの子と離れたくなくて一人暮らしを始めたら美少女幽霊と同棲する事になりました(仮)
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 10月16日全改稿
「ね~あっ君。お菓子食べたい。あ~んしてよ。あ~ん」
一人暮らしを始めて間もない春休み中のある日の事、僕が荷解きをしていると、ルームメイトである奈々子さんが猫なで声ですり寄ってきた。
奈々子さんは長い黒髪をポニーテールにした快活そうな美少女だ。すらりとした身体つきの割に胸は大きくて、部屋の中だというのにセーラー服を着ている。
「またですか? お菓子ならお昼に食べたばかりじゃないですか」
「だって食べたくなっちゃったんだもん。ね~ね~お願い。あ~んしてよぉ。あ~んしてくれたら、お礼にパンツ見せちゃうから」
拗ねたように唇を尖らせると、奈々子さんが同情を誘うような目をして両手を合わせる。そして、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべ、長いスカートの端をつまんで軽く持ち上げた。
真っ白い生足が眩しすぎて、僕は思わず目を背ける。
「い、いりませんよ!?」
この春高校二年生になる僕、
彼女が出来た事は勿論、モテた事だって一度もない。
だから、美少女の奈々子さんにそんな事をされたら、真っ赤になってドキドキしてしまう。
「じゃあ、あ~んしてくれる?」
勝ち誇った顔で微笑む奈々子さんに、僕は負けを認めて溜息をついた。
「……はぁ。わかりましたよ。お供えするので、ちょっと待っててください」
「やった~! 流石あっ君! 頼れる優しいルームメイト! かっこい~! ひゅひゅ~!」
大はしゃぎする奈々子さんに肩をすくめると、僕は奈々子さんの為に買い置きしておいたお菓子を一つ取り出し、両手を併せて奈々子さんの為に拝んだ。
普通なら、お菓子なんか自分で食べてよと言いたい所だけれど、奈々子さんが相手ではそうもいかない。
だって彼女はこの部屋に囚われた地縛霊、幽霊なのだ。
どうしてこんな事になってしまったのか。
それを語るには、数日程時間を遡る必要がある。
†
僕が一人暮らしを始めたのは、父親の海外転勤による引っ越しを嫌がったからだ。
住み慣れた土地を離れるのは嫌だし、日本国内ならともかく、外国となると尻込みしてしまう。僕は両親のように優秀じゃなかったので、英語もほとんど喋れない。
他にも色々理由があって、無理を言って一人暮らしを許して貰った。
とはいえ、本音では両親は僕の一人暮らしに反対していたのだと思う。
一人暮らしをするにあたって僕に与えられた予算はすごく少なかったし、その為の手続きや物件探しも一人でやるように言われた。
無理難題を与えて、諦めさせようという魂胆だったのだろう。
でも僕は、どうしても今通っている学校を離れたくなかったから、必死になって予算内に収まるように頑張った。
一番の問題は物件だった。
月々の家賃が安いのは勿論、敷金礼金も要らない所を探さないといけない。
そんな物件があるのか不安だったけど、もしあったなら、古くても狭くても構わない。遠いのだって、自転車で二時間……いや、三時間までは頑張る覚悟だ。
ところが、予想外にいい物件が見つかった。
学校から徒歩十分、2LDKで月一万、敷金礼金無し。
全然悪くない。むしろ良すぎるくらいだ。
実際、他の部屋はかなり強気な家賃を提示していた。
安いのは、二階にある角部屋の一室だけなのだ。
あからさまな事故物件だ。
小学生どころか、幼稚園児だってヤバいと分かる。
でも、僕はそこに決めた。
他に条件に合う物件がなかったし、あったとしても、どうせ似たような事故物件だ。
この予算を提示された時から、僕は曰く付きの物件に住む覚悟を決めていた。
そういうわけで僕はこの部屋に引っ越してきた。
最低限の荷解きを終えると、机を組み立ててパソコンを設置した。
僕はちょっとオタクな現代っ子なので、パソコンが使えないと色々困る。
回線は元々引いてあったから、ネットはその日の内に開通した。
近所のコンビニで買い出しをして、一人ぼっちの引っ越し祝いをする事にした。
パソコンで好きなVの配信を流しながら、机の上に贅沢にお菓子を並べ、ペットボトルのコーラでエア乾杯。
こんな事、両親と住んでいた頃なら、お行儀が悪いと怒られていただろう。
キーボードを叩いてコメントしながら、僕は一人暮らしの解放感に酔いしれていた。
なんだか少し大人になったような気がして、新学期からは新しい自分になれるような気がしていた。
「ふ~ん。最近はこういうのが流行ってるんだ」
「うわぁあああああ!?」
「きゃああああああ!?」
突然耳元で女の子の声がして、僕は椅子から転げ落ちた。
いつの間にか、知らない女の子が隣に立ってモニターを覗き込んでいた。
長い黒髪をポニーテールにした快活そうな美少女で、部屋の中なのに何故かセーラー服を着ている。すらりとしているくせに、かなり大きな胸の持ち主だ。
女の子は僕が驚いた事に驚いたみたいで、びっくりした顔で仰け反っていた。
「なに、君!? どこから入ってきたの!?」
「入って来たっていうか、あたしの方が先に住んでたんだけど……。君、あたしの事が見えるんだ……」
どことなく泣き出しそうな顔で言うと、女の子が右手を伸ばした。
ぞわりとした感覚と共に、彼女の腕が僕の胸を貫通する。
「あたし、幽霊なの。この部屋から出られないから、地縛霊って奴かな?」
それが奈々子さんとの出会いだった。
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