【続】 異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ベナード商会と新たな遺構
フレヤとの再会とマルクへの朗報
焼肉屋の常連であり、旅の仲間でもあるハンクが幸せならうれしく思う。
サユキとお似合いなので、彼の幸せを願うばかりだった。
二人の仲睦まじい様子にほっこりした気持ちになる。
からし菜の天ぷらを味わいつつ、やがてそばを完食した。
薬味のわさびがいい風味で、おでんのからしと同じように欠かせないと思った。
前回はかけそばだったが、今回のざるもなかなかの味で満足だった。
全員が食べ終えたところで勘定を済ませて店を出る。
ちょうどお昼の時間で柔らかな陽光が通りに差していた。
「マルクたちには話したかったから、伝えることができてよかったぜ」
「こちらこそありがとうございます」
「これからサユキと出かけるから、それじゃあな」
「また会いましょう」
ハンクは笑顔で手を振り、サユキは丁寧にお辞儀をして去っていった。
遠ざかる背中を眺めながら、旅の日々をしみじみと思い返した。
「二人とも幸せそうでしたね」
「ハンクがサクラギに根を張るとは驚いたわ」
「そういえば、アデルの今後はどんな予定なんですか?」
「フェルトラインやヤルマに行って、料理や旅の情報が増えたから、久しぶりに紀行文を書くのもいいと思っているわ」
「いいですね。アデルの書いた本は見たことがないので読んでみたいです」
アデルと口々に感想を言った後、町のどこかで騒ぎが起きている気配がした。
音の聞こえ方からして、そう遠くない距離のようだ。
「あれ、何かあったのか」
「こんなふうになるなんて珍しいわね」
「見に行ってみましょうか」
「ええ、そうしましょう」
二人でそば屋の前を離れて歩き出した。
騒ぎが起きている場所は見物人がいることで、すぐに見つけることができた。
「……馬車? いや、つながれているのは馬じゃない」
「初めて見るわ。あれは竜なのかしら」
珍しい生きものが客車を引いていた。
サクラギの人たちも物珍しいと感じたようで、何人もの人が注目している。
「あっ、マルク!」
客車の方から名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声に視線を向ける。
栗色の髪とアラビアンな衣服。
どこか東洋風な面影のある整った顔立ち。
留守の間に店を任せていたフレヤだった。
「あれ、どうしてこんなところに?」
「実はお父さんが話したいことがあるみたいで、一人にするのは心配だからついてきちゃった」
「やっほー、婿殿」
客車から大柄な男が身を乗り出した。
たしかフレヤの父親のブラスコだ。
フランクなノリだが、べナード商会の社長である。
二人と話していると兵士の一人が小走りで近づいてきた。
おそらく騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
「失礼いたします。こちらの方々はマルク殿のお知り合いで?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえ、問題ありません。ただ、馬車と同じように町の外に停めて頂きたいのですが」
ブラスコがただ者ではないと察したようで、兵士は言葉を選びながら話している。
まるで日本人のような丁寧な態度に懐かしい感覚がした。
「ごめんなさい。すぐに移動させます」
「ささっこちらへ。ご案内いたします」
落ちつかない状況になっていたが、フレヤ親子と珍しい生きものの荷車が去ったことで静かになった。
町の人たちは何ごともなかったかのように去っていく。
「ねえ、さっきの男性が婿殿って言っていたけれど」
話すタイミングを見計らったようにアデルが口を開いた。
ハンクの結婚話を聞いたばかりなので、彼女が興味を抱いたとしてもおかしくはない。
「さっきの人はべナード商会の親分で、娘のフレヤと結婚して跡継ぎになってほしいみたいです」
「ああ、なるほどね。見覚えがあると思ったらブラスコ社長だったわ。それにしてもすごいじゃない。商会の後継者なら将来はお金持ち確実よ」
「いい話だと思うんですけど、まだ色んなところを見てみたいですし、後継者ともなれば融通が利かないことも増えると思います。焼肉屋の店主の方が気楽かなと」
「なるほど、それも一理あるわね」
こちらの答えにアデルは納得するように頷いた。
二人で待っているとフレヤとブラスコが歩いてきた。
「いやはや、サクラギという国は興味深い。初めて来たけども、気になることが目白押しだ」
「ほらお父さん。今回はゆっくりする時間はないよ」
「もうフレヤちゃんたら手厳しい。それで婿殿、面白い話を持ってきたよ」
俺が喜ぶようなプレゼントを持ってきたと言わんばかりの表情。
フレヤもどこかそわそわしている。
「サクラギまで来てもらったのですから、ぜひ聞かせてください」
「いいね、わしが見こんだだけのことはある」
ブラスコは満面の笑みを浮かべながら話を続ける。
「ランス王国で何か商売を始めようと思って、キャラバンを連れて国内を回っていたら、手つかずの遺構を見つけちゃった!」
「……えっ? すみません」
遺構という言葉は知っているが、どういう意味だっただろうか。
話についていけないことで、冒険者を離れて久しいことを実感する。
「つまり、新しいダンジョンを見つけたということね」
「ああ、そういうこと……ってすごいことでは?」
アデルが補足してくれたおかげで、ようやく理解が追いついた。
ブラスコはフレヤを同行させて、そのことを俺に伝えに来てくれたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます