クーデリアと再会を誓う
それから、リンとクーデリアと話すうちに時間が経っていった。
ミズキとアカネは海水浴が気に入ったようで、俺たちのところに戻ってきて食事休憩を挟みながら何度か海に入った。
焚き火の近くは暑いものの、浜小屋から伸びた日除けの下に入っていれば、そこまで気温の高さは気にならなかった。
時折吹く風が心地よく、海の見える位置で談笑していることで旅の最中であることを実感できた。
クーデリアが勇者であることを口外するわけにはいかないため、三人で話す時に俺自身の身の上を話すことが多くなった。
自然な流れでリンとクーデリアに、これまでの経験を話すことになっていた。
「サクラギに行くだけでも遠いのに、モルネアの先にランス王国っていう国まであるなんて、世界は広いっすね!」
「ランス以外にも色んな国があるけど、全部説明したら収集がつかないから、ほどほどにしておくよ」
「マルク、今日はありがとう。リンの楽しそうな姿を見て、私もうれしい気持ちになった」
クーデリアが改まって感謝の言葉を伝えてきた。
「いえいえ、お互い様です。色んな魚を食べさせてもらって、俺の方もクーデリアさんの話を聞くことができたので」
「それはよかった。またいつか私の元を訪れてくれるか?」
彼女はまっすぐな瞳でこちらを見た。
悠久の時を生きる勇者にとって、人との出会いは大きな意味があるのだ。
出会いと別れがなければ、時間の感覚が分からなくなりそうだから。
「次はいつになるか分かりませんけど、必ず来ます」
「ありがとう。また会える日を楽しみに待っている」
クーデリアとの会話に区切りがついたところで、ミズキとアカネが戻ってきた。
海で泳いできたばかりのようで、肌に水滴と砂粒がついている。
「いやー、楽しかった! サクラギに海水浴場を作りたい気分だよ」
「姫様、中心地の近くに海はないため、湖水浴場であれば可能です」
よくできた部下のように、さらりとアカネが述べた。
サクラギの地形に詳しくないが、適した湖がどこかにあるようだ。
「うーん、それならできそうだね。少し寒そうだけど」
「二人とも海から上がったら身体を流した方がいい。これから私も行くから、一緒に来ないか?」
「おっ、近くに水浴び場があるの?」
「海の近くなのだが、真水が湧く泉がある」
クーデリアの提案にミズキとアカネは前向きだった。
「マルクくん、ちょっと行ってくるね」
「はい、ごゆっくり」
クーデリアたちは連れだって、泉のある場所へと向かった。
残された俺とリンは焚き火の片づけを始めた。
「リンは手伝いをして偉いね。オルスの店でも働いてるし」
「そんなことないっす。ヤルマでは当たり前のことっすよ」
「実家の民宿はともかく、オルスの店では給金は出てるの?」
下世話な質問かもしれないが、気になるところだった。
「もちろんっす。マスターは将来困らないようにと、ちょっと多いと思うぐらいお金をくれます」
「ヤルマはいい国だけど、お金があれば他国へ行くとか色んなことができるよ」
リンはマグロ三昧のことが気に入っているようで、オルスや店のことを話していると笑顔が多くなる。
「そういえば、大将とかじゃなくて、マスターって呼ぶんだね」
「最初は大将って呼ぼうとしました。だけど、マスターがそれを嫌がって、他の候補からマスターになったっす」
「うーん、なるほど」
これは憶測でしかないが、大将と呼ばれると魔王だった時のことを思い出してしまうのかもしれない。
オルスに配下がいた時、どう呼ばれていたのかまでは想像つかないが。
しばらくして、クーデリアたちが戻ってきた。
水浴びを済ませることができたようで、三人ともさっぱりした顔をしている。
「ふぅ、すっきりした。冷たい水で快適だったよ」
「よかったですね。そういえば、ミズキさんたちの水着はどこで買ったんですか?」
この世界で作られたものにしては完成度が高く、ヤルマの住民が作ったとは考えにくかった。
「あれは町の売店で買ったんだ。昨日泊まった民宿から、わりと近所にあったよ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
俺とミズキが話を終えると、クーデリアが何かを伝えようとして口を開く。
「今日は君たちのおかげで楽しかった。これから魚を届けないといけないから、もうそろそろ解散しよう」
「いえいえ、こちらこそ。新鮮な魚を食べることができた上に、目の前の海はきれいで最高でした」
「わたしもクー様についていくので、一旦お別れっす」
俺とミズキ、アカネの三人はクーデリアとリンに別れを告げて、浜小屋の近くから移動を始めた。
都会のように複雑な道ではないため、少し歩くと来た時の道に合流できた。
「さっきの売店に興味があるんですけど、案内してもらえますか?」
水着のデザインを見た時に転生者が作ったものであるという可能性を感じた
まずはたずねてみて、状況を確認するつもりだった。
「うん、同じ場所に茶店もあるから、そこで休憩しよっか」
「なるほど、それはいいですね」
ちょうど今は昼と夕方の中間ぐらいの時間だった。
日差しはまだ強く、抜けるような青空が前方に広がっている。
三人でしばらく歩いたところで、道沿いにローカルな商店のようなものが目に入った。
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