火山を鎮める作戦

 立っていられないほどの揺れではなかったが、床に腰を下ろしてテーブルを掴んで支えにする。

 アデルとハンクは戸惑いながらもしゃがんでおり、酒に酔っていても冷静なようで安心した。

 

「おっ、収まったか……」


 揺れは長く続くことはなく、すぐに収束した。

 倒れた食器を立ててから、ミズキへと声をかける。

 

「もしかして、今のって――」


 地震ですかとたずねようと思ったが、サクラギを訪れることのなかった自分が知っているのは不自然なため、慌てて口をつぐんだ。


「何だったんだ、今のは? さすがに酔いが醒めるな」


「ねえ、何か知ってるんでしょ? さっきの続きを話して」


 二人は地震など経験したことはないはずだが、わりと冷静だった。


「あれっ二人とも、反応が薄いね!?」


 俺も似たようなことを思ったが、ミズキはアデルたちがもっと驚くと考えたようだ。


「世界は広いのだから、地面が揺れる土地があってもおかしくないでしょ。さあ、続きを話して」


「う、うん、分かった」


 ミズキはどこか釈然としない様子だが、気を取り直して話を始める。


「実は地面が揺れたのは、ここから離れた場所にある火山の影響なんだ」


「うんうん、それで」


「面白そうな話だな、続きを頼む」


 わりとまじめな話を酒のつまみにしようとしているアデルとハンク。

 今に始まったことではないが、二人のタフなところには驚かされる。

 各地を旅しているので、多少のことでは動じないのだろう。


「何だか調子が……まあいいや。それで、本来なら火山が活発にならないようになってるんだけど、山麓のヨツバ村がややこしいことになっていて……」


 ミズキは複雑な内容を話すつもりのようで、話しながら整理しているようだ。


「村の人がおとん……お父さんに陳情に来て、お父さんがそれを知らせようとして、あたしが呼び出されたって経緯なんだ」


「そのややこしいことって、教えてもらうことはできますか?」


 少し間があったが、ミズキはこちらの問いに頷いた。


「火山の近くには猿人族っていう亜人が住んでいて、彼らには火山を鎮める力があるんだけど、その見返りに大量の物資を要求してたんだ。村の人たちは苦労しながらそれに応えて、時にはサクラギが国として支援することもあった」


「……猿人族。そんな種族が」


「エルフ以外に珍しい種族がいるものね」


 ミズキは俺とアデルに視線を向けた。

 そして、続きを話し始める。


「彼らは火山の近くからは出ないからね。寿命から何から謎が多くて……。それで困ったことになってるのは、物資だけでなく生贄を要求しだしたことなんだよね」


 ミズキは神妙な表情を覗かせた。

 深刻な内容に、どう応じるべきか分からなくなる。


「ああっ、なるほど。さっきの巻きこみたくないっているのはそういうこと」


 アデルは合点がいったというふうに言った。


「お父さんはアデルが魔法が得意なことを知ってるし、ハンクは腕利きだからって。あたしとしては魔法が使えると心強いから、マルクくんにも来てほしいっていうのもあって……」


「水くさいわよ。私とあなたの付き合いじゃないの。それぐらい手伝うわ。もちろん、それに見合う対価は用意するのよ」 


「アデル……」


「おれも手伝うぜ。猿人族に興味が湧いた」


「俺も手伝わせてください」


「二人とも……」


 ミズキは感極まったように目元に涙を浮かべている。    

 そんな彼女の様子に胸を打たれたところで、どこからともなく女が現れた。

 まるで忍者のようだが、こんな能力を持つ者は見たことがない。


「――ミズキ様、お耳に入れたいことが」


 こちらの戸惑いをよそに、女はミズキへと話しかける。

 その女は土産物屋で話しかけてきた者と同一人物のようだ。


「もしかして、さっきの揺れで何かあった?」


「幸いにも負傷者は出なかったようですが、崩れた建物がちらほら」


「分かった。すぐ見に行く」


 ミズキは女からの報告を受けて、どこかへ向かおうとしている。


「何か手伝えることがあるかもしれないので、ついていっても?」


「うん、ありがとう」


 ミズキはこちらの呼びかけに微笑みで応じた。


 彼女に続いて宿屋を出て、通りを歩いた先にその光景は広がっていた。

 崩壊とまではいかないものの、屋根などが崩れた民家がいくつか見える。


「――こいつはなかなかひどいな」


 ミズキと共に眺めていると、駆けつけたハンクがぽつりと言った。

 

「うーん、資材は足りるはずだけど、人手が足りるか分かんないな」


「大工仕事でよかったら、おれは経験があるぜ」


「ハンクはヨツバ村についてきてほしいけど……こっちを手伝ってもらった方がいいか。猿人族の裏をかくのに少数精鋭がいいし、アカネも一緒だから」


 紹介されたわけではないが、ミズキの口にしたアカネという人物は忍者のような女のことだと思った。


「それじゃあ、決まりだな。マルク、火山の方はよろしく頼むぜ」


「はい、もちろんです。家を直すのは大変だと思うので、気をつけてください」


「おう、ありがとな」


 ハンクは優しげな表情で笑みを浮かべた。  


「あたしはもう少し確認していくけど、二人には明日からがんばってほしいし、宿に帰って寝ていいよ」


「分かりました」


「姫さんも無理すんなよ」


「うん、ありがとう! それじゃあ、また明日」


 ミズキの責任感の強さを垣間見ながら、俺とハンクはその場を後にした。

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