クリア報酬は?
私は、今何故か門番のおじさんのミュレに対する説教を一緒に聞いている。
「ミュレ、お前に何かあったらどうするつもりだったんだ! お前がお母さんの為に何かしたかったのは分かるが、お前に何かあったら一番悲しむのはお前のお母さんなんだぞ」
「はい……ごべんなざい」
ミュレは泣きながら説教を受けている。
そしてミュレに説教をしていた、おじさんが私の方を向き頭を下げる。
「本当にありがとうな。ミュレを助けてくれて」
「当然のことをしたまででだよ〜」
だってあそこで見て見ぬふりして、次からは発生しないイベントだったら大変じゃん。
「ミュレからも、もう一度お礼を言っておきなさい。幸運に幸運が重なった結果なんだから」
「ぐずっ、あり、がとう、ございます」
「気にしなくていいよ〜」
「それじゃあ、ミュレ、一応身分証を出してくれ」
「……はい」
おじさんがそう言い、ミュレが身分証? を渡す。
そしてミュレと一緒に行こうとしたら何故か呼び止められた。
「何?」
「決まりだからな。ティアも身分証を出してくれるかな?」
「え、 私も?」
「そりゃ、そうだけど……」
え? そんなの持ってないんだけど、NPC限定の仕様じゃなかったの!? ゴールドで入れてもらえないかな。
「もしかして無いのか?」
「持ってない」
「そうかい、まぁ、たまにだけど身分証を持ってない人もいるからな。冒険者ギルドで無料で登録できるから、それだけでもしておいて損は無いと思うぞ。それで、身分証がないなら銅貨3枚だ」
「ティアさん、あんなに強いのに、冒険者じゃなかったんですか?」
「え? あぁ、うん。そうだよ」
取り敢えずミュレの言葉には適当に返す。
銅貨って何? ゴールドでしょ? 他のお金なんて持ってないけど。
んー、ゴールドを出してみるか。
「これでいい?」
「これは……他国の金貨か?」
……ゴールドを知らない? ますます意味が分からないなぁ。今がバグってる状態だし、これもバグの影響かな。
「あ〜、じゃあ、それで銅貨? とかと交換って出来ないの?」
「いやいや、他国の金貨であっても、流石に銅貨とじゃ釣り合わねぇぞ。俺が銀貨10枚と交換しよう。そこから銅貨3枚を引かせてもらうが、いいか?」
「うん。よくわかんないけど、それでいいよ」
そして私の手元には、銀貨9枚と銅貨7枚がやってきた。(おじさんに説明してもらった)
このエリア独特のお金ってことなのかな? んー、やっぱりバグ? あー! もういいや。考えるだけ疲れる。さっさとミュレのお母さんの病気治してクリアしちゃおう。
「じゃあもう通っていいよね?」
「ああ、もちろんだ。ようこそ、ガルフへ」
「じゃあミュレ、案内よろしくね」
「はい!」
なんかあれだなぁ、人間が多いなぁ。獣人とかエルフ、ドワーフもいるっちゃいるけど、あんまりいないどころか
一人も居ないな。私がたまたま見てないだけかな。
てかすごいな。こんな言ってみればモブ達にもちゃんと色々な表情があるんだけど。
「ティアさん?」
「ん、何?」
「あ、いえ、なんか誰かを探してる? みたいな感じだったので」
「んー、気にしなくていいよ」
「そう……ですか?」
「うん」
誰かっていうか、ちょっとプレイヤーを探してみただけだしね。
私は試しにログアウトボタンを確認するが、まだ出来ない。
……戻った時漏らしてたら絶対苦情入れてやる。ついさっきまでバグなんてどんなゲームにもあるから仕方ないって思ってた私だけど、本格的にリアルの私が漏らしそうなら話は別だよ!
「ここです」
「あ、うん」
そこは周りの建物と比べて、少し小さい家だった。
「お母さんただいまー」
そう言ってミュレが扉を開け入っていく。
ミュレは今日あったことを説明し、私を紹介する。
「……ども」
なんかミュレが私をスーパーヒーローみたいに話すからNPC相手にちょっと恥ずかしくなっちゃって、素っ気ない挨拶になっちゃったよ。
「こんな状態で申し訳ありませんが、娘の事を助けてくれて、本当にありがとうございます」
ミュレのお母さんはベッドに横になったまま私にそう言う。
「気にしないよ。それよりちょっとごめんね」
私はミュレのお母さんに近づき手をかざす。
「状態入れ替え」
単純に、怪我、状態異常、バフの効果を入れ替えるスキルだ。自分の怪我や状態異常を他人と入れ替えることは出来ないけど、他人から自分へは出来るスキル。
そして入れ替えは成功したみたいで、体が重くなったので、レベルの暴力でレジストする。
「体が……」
ミュレのお母さんは、驚いた様子でベッドから起き上がる。
ミュレがそれを見て直ぐに横になるように言おうとするが、ミュレのお母さんがミュレを抱きしめる。
「お、お母さん?」
「ごめんね。ミュレ。私のせいで、毎日大変な思いさせて」
「だ、大丈夫だよ! お母さんが元気になってくれたら、私は……それで……」
そしてミュレは泣き出してしまった。そんなミュレを抱きしめたまま私の方へ顔を向けるミュレのお母さん。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。これでミュレに苦労をかけずに済みます。このお礼はどうしたら……」
「私がしたくてした事だから、大丈夫」
家族愛だねぇ。それで? クリア報酬は? 無いんだけど、なんで? もしかしてまだ続いてるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます