大切な彼
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大切な彼
彼と知り合ったきっかけは、市立図書館での出来事。少女漫画の出会いのように、同じ本を取ろうとして手が触れ合ってしまったのがきっかけだった。その本は私が先に借りることになった。
二度目は同じ図書館で探している本の場所がどうしてもわからないときに偶然、彼と再会した。彼はすぐに私が探していた本を見つけてくれた。しかも、こんな事が二度も続いた。
私は道や約束した場所を間違えやすい左右失認がある。社会人になってからこのことを自覚するようになるとリハビリにも通い、社会生活で困らない程度までは克服することができるようになった。しかし、この障害がきっかけで彼と出会う事ができて、会話するようになった。
しばらくして彼から交際を申し込まれた。
自分はそれほどと思っていなくても、何処か鈍臭い。オマケに性格は引っ込み思案である。そんな私に生まれてはじめて出来た彼。身長が一八〇センチあり、整った端正な顔。笑うと右側にエクボができる。その笑顔がなんとも愛らしく、毎日でも見ていたい気持ちにさせてくれる。勿論、彼に惹かれているのは顔や背の高さだけではない。性格はとても優しく、気遣いを忘れない。私がどんな不機嫌なときにでも嫌な顔をせずに付き合ってくれる。そんな彼だから、不機嫌な時間が自然と減ったような気がしている。私の友達も彼と付き合い始めてから、私のことを「丸くなった」と評してくれる。見た目の話じゃない。性格の話。
そんな彼だが、全く不満がないわけではない。ごくごく稀に、とても醒めた態度を取るときがある。何を話しても上の空のような感じで私のことを軽くあしらう時がある。でもそんな時の彼も素敵なのだ。いや、そんな時があるからこそ、普段の優しい彼が引き立ちより魅力的に見えるのだ。誰だって少しミステリアスなところがあってこそ魅力的に見えるのかもしれない。
ちなみに彼は一卵性の双子の弟。お兄さんとは一時間だけ離れた兄弟。私はまだお兄さんに会ったことはないが、彼のスマホが繋がらないときに一度だけ自宅の電話で少しだけ話たことがある。お兄さんは彼と違ってクールな態度だった。
彼曰く「ちょっと不愛想かもね」こんな時も彼の笑った顔にはエクボが浮かぶ。
付き合い始めて半年が過ぎ、私は初めて彼に抱かれた。
彼から告白されて、初めてのデートで手を握られ、別れ際にそっと唇を奪われた。その日の夜は興奮のあまり全く眠れなかった。しかし不思議なもので、そのうちに手を握るのにも慣れ、キスをするにも慣れて、私からキスをねだることもできるようになった。そうしてついにこの日がやってきたのだ。彼と一泊二日の旅行。
半年の間に既になれたはずの見慣れた横顔も笑顔も、この日に限ってまともに見ることができず、何を話したのか、一緒に食べたランチの味もあまり覚えていない。
いっぱい写真を撮っていっぱい笑ってずっと手を握った手ひらの感触も、たくさん楽しんで、たくさん話した内容さえもよく覚えていない。ただ、その日の私たちはずっと笑顔が絶えなかったことだけは覚えている。
その夜、ディナーを終えホテルに着いて部屋に入るといきなり後ろから彼に抱きしめられた。私の背中に伝わる彼の体温。私はその熱に反応するように、芯が熱くなった。
彼に私のすべてを委ねた。
私たちはとても熱い夜を過ごした。ますます彼のことが好きになっていった。もう、彼無しでは生きてゆけない……彼の要求なら全て受け入れられる。
その後も何度も逢瀬を重ね、身体を交わせた。彼はその度私を満足させてくれた。
ある日の夜、彼は私の首を絞めたいと言ってきた。その言葉に私は流石にたじろいだが、彼の要求ならと思い受け入れた。
彼が私の首に手をかける。ギュッと掴まれ呼吸ができなくなる。私は声を振り絞ったが彼は私を離そうとはせずに腰を大きく動かした。激しく身体を揺らぶられる度、苦しいと感じながらそれより大きな快楽へ私は導かれた。私が果てた後、彼の右側にはエクボが浮かんでいた。彼も私に満足してくれたのか……
彼はどんなことを私に施しても最終的には満足させてくれる。首絞めだけじゃない、他の行為も彼は激しく私を新しい刺激に導いてくれた。激しいだけじゃない。後はとことん優しいのだ。その度、彼の笑顔と右側のエクボに癒やされる。その日激しくても、違う日には徹底して優しい。私は疑いようもなく彼の虜だ。
私は彼にベッドの中で頼んだ。
「そろそろ、ご両親やお兄さんに会わせて」すると彼から、
「兄貴にはもう会ってるよ」という返事が帰ってきた。彼は笑顔でそう言うと左側にエクボができていた。
大切な彼 おしまい。
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