摑む2俺side

紫陽花の花びら

第1話

 俺はどうしようもなく臆病になっている。

愛なんてもういらないんだ。

 信じていた。愛していた。

その全てが突然消えた世界を眺めただ笑う。

目の前に映る辛辣な痛みを嘲笑うんだ。惨めのひと言だよ。


初めで知ったよ。足元が崩れ堕ちる感覚を。ガラガラとまさにそれだった。

 ただ通り過ぎるだけの相手が良い。決して心は交わらない。

 四方から、それぞれの道を歩いてきて、ほんの一瞬重なりそして離れる刹那の関係……。

そうやって生きて来たのに…… 出逢ってしまったんだ。君に。

瞬間的に心が震えた。

でも、認めたくなかったよ。

それが本音だった。

 俺の前には細い十字路が頼りなく解りきった明日を指している。

その道をひとり歩き出す事に、躊躇している俺を、君はじっと見つめていた。

 優しい君は俺を尊重し、おずおずと近づいては、また距離を取るんだ。

「何も話さなくて良いから。傍にいさせて。抱いて終わりは嫌」

「そんな事しないから」

嘘じゃない。嘘じゃないんだ。

でも、「逢いたい」そう言われる度に体が、心が強張る。

深く結ばれるほど、心は臆病の殻に逃げこむ。


「信じてなんて言わないよ。私は何時だってここにいるし、手をほんの少し伸ばしたら触れられる距離にいる。それを、それを信じられるときまで見つめている」

なんだ?それ……信じたいと思う心に言葉が柔らかく覆い被さる。


 無性に逢いたい。逢いたい。

今夜、違う! 今すぐ逢いたい。


 君が視界に入った。

本当は抱き締めたかった。

でも出来た言葉は、

「どうした? 何故……」

馬鹿な男だ。

何も言わない君は、思いのほかきつく手を握り歩き出す。

真っ直ぐ前を見ながら

「帰さない!!」と言い放つ君。

俺は何を考える? 頰を濡らしている君に応えたい。

「……帰らないよ……泣かないで」

強がる君を今すぐ抱きたい。

背伸びした君は、熱い吐息を拭きかけながら、俺を欲しいと何度も囁く。

何も言わず激しく貪る俺は、君の言葉とはほど遠い、壊れそうな程高鳴る鼓動を聞いた。


その時、俺はあのクロスロードの鳥を摑むと決めた。


可愛いよ……鳩が豆鉄砲喰らったようなその顔が。


「摑みに行こう」


君に誓うよ。

俺の全てになった君に


俺たちの永遠を。






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