第四四話 腐るとは、すなわち微生物による分解作用の結果である
翌日の午前、
(無駄に懐かしくて、困りものだな)
幼い頃に捨てられたとは
徐々に意識が
「お前のせいか……」
「ん、うぅ」
俺の動きで漏れた声を聞き流して、先に起床して身なりを整えていた吸血鬼らの一人、筋骨隆々な飛兵隊の副長マーカスに無言の視線を投げる。
「おはよう御座います、旦那。えっと… 昨晩は
「で、その本人は熟睡して機を
「ははっ、否定はできませんね」
破顔した副長は無頼漢な見掛けによらず、細やかな気配りを欠かさない
他の者達もなるべく音を立てずに装備を整え、未だ眠りの中にいる上官を気遣っていたので、それに
ざっと常駐兵用の大部屋を見渡せば起きている方が少ないものの、休息も仕事の内なので無理に目覚めさせる必要はない。
(まぁ、俺達にはもう一仕事あるからな)
彼女の組んだ
なお、跳ね橋さえ上げてしまえば簡単に攻め落とせない代わり、食糧含む物資の搬入も
「良い囮になること請け合い… ッ!?」
「んっ… うぁ…」
思考を
守備隊向けの宿泊設備にいた吸血鬼らが
「朝っぱらから、何やっているんですか、クラウド卿……」
「寝ている
「待て、不可抗力だと弁明させてくれ」
眠り姫本人はさておき、飛兵隊の面々に対して黒髪緋眼の騎士が言い訳など並べていた同時刻…… とある河川敷では、北西領軍の本隊が
鉄鍋を焚火の上に載せて、コボルト達が獲ってきた川魚を煮付けている老執事レイノルドの背中へ向け、組み立て式の椅子に腰掛けて『
「今日も平穏ね。相変わらず、対岸のベルクス王国軍に動きは無いの?」
「はい、野生動物に擬態できる獣人兵を数名渡河させ、随時監視などしていますが、部隊を動かすような気配はありません」
若干、応じた声に気難しい色が混じるのは
されども 『敵方が河底に効果的な罠を仕掛けている以上、
「“流動的な情勢下では不用意な損耗を避けるため、膠着状態に甘んじる” ね……」
「あの若造が言った通り、適度な緊張を維持したまま、英気を養っているようです」
単に
ただ、軍事面に
「…… しかし、
「ふふっ、そのままだと無理だけど、密封した状態で瓶ごと煮沸するから大丈夫。以前、腐敗は微生物に由来する分解の結果だって話したわよね? 加熱して死滅させつつ、空気も抜くことで腐り
「こちらの加工技術だと缶詰を作るのはシーリングの部分で不安だから、今回は手軽な瓶の方を採用したの」
「左様で御座いますか」
語られた
「あ、煮沸時に気化膨張するから、コルクの栓は緩めにね」
「承知しました」
後は暫く寝かせて、ある程度の日数が経過した頃合いで試食するわけだが……
保存食の提案者であるエルザの試食は安全性の観点から止められてしまう。
「むぅ~、どうしてもダメ? (上目遣い)」
「当然です、体調を崩されては適いません」
「ん、分かったわ。少し残念だけど開栓時期をずらしながら、何ヶ月持つのか検証していきましょう♪」
戦場でも我が道を
やがて
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