第二九話 裏通りにある狐のお宿
「はぁっ… 困ったな、あんたらは身軽でいいが、こっちは店担いで逃げられないんだよ。その
「はうぅ、マスター、見捨てないでください~」
「すまん、無理だ。私にも妻子と生活がある」
若干、涙目になっている蒼魔人族の娘から
互いに暫く見つめ合った後、店主は卒倒している兵士達の
「さて、こちらも事後処理が必要だな」
「…… しょうがないよね。その
「はい?」
こてんと小首を
「ち、ちょっと待ってください~」
「ん、悪いようにはしないからさ、あたしに付いてきなよ」
獣人系の衣服にありがちなスリットより伸びた尻尾を振り、シアと呼ばれていた娘を
「“
「クラウドッ、早く来ないと置いてくからね!」
客引きのために開放されている扉を
酒場に留まる理由は別になく、
息苦しさを伴う占領下であっても、人々が暮らしていれば日々の営みはあるわけで… 多少の
勿論、肩で風を切っているベルクス王国軍の連中も散見され、街並みには首都陥落時の略奪で破壊された未修繕の店舗や、焼き討ちされた建物の残骸も混じっていた。
「ここ最近の治安とか、どうなんだ?」
「えっと… 多分、良く無いです。兵隊さんが酷いことをします」
早々に腕を解放されたことで、狐娘の斜め後方を歩いていたシアと並び、首都イグニッツの現状を聞けば良好とは
そんな会話の内容が狐耳に聞こえたのか、こちらを一瞥することもなく、先導役のペトラが言葉を紡ぐ。
「
「過度な自己利益の追求は反発を生み、統治の
「規律の行き届いた部隊はともかく、占領後に送られてきた王族派と軍閥貴族が主導権を奪い合ってるから、末端の人員まで統制が効いてないだけ」
そう
隙あらば貴族間の継承問題などに介入して、発端となった係争地を直轄領に組み入れてしまう事例も少なくない。土地を返還させられた貴族は王命に従い、行政を執り行うだけの
ただ、あまりに王権の強い国だと既得権者が徒党を組んで
(ベルクスも王政を敷いているからな、ディガル部族国との戦争を契機にして、遠征中の軍閥貴族らが
彼らの筆頭であるコルヴィス将軍は総司令という立場上、本国に
政治に
「…… さて、何処まで
「はぅ、何の事でしょう?」
誰にともなく呟いた言葉を拾い、困惑気味に表情を
一本裏の通りには大衆浴場に加え、必ずと言ってよいほど併設されている開放的な建物があり、街路に面したテラス席では妖艶な獣人系種族の娘達が午後の紅茶を嗜みながら、営業も兼ねて柔らかい微笑を通行人の男性へ向けていた。
「待て、そっちの手勢が
「ん、狐人族の経営してる
さらりと述べられた事実を肯定するかの如く、準備中ということで閉じられていた扉が開き、掃除道具を片手に持った精悍な若者が出てくる。
見たままの印象だと、娼館の用心棒であれども……
首都まで連行された虜囚の吸血姫を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます