夜明けに微睡む ヴァンパイア
shiba
第一話 斯くして物語は動き出す
ざあざあと、強風が吹き抜ける森の中をどれくらい
ふとした疑問と同時に握り締めたままの右掌に気付き、赤黒い血のこびりついた鉄剣に視線が向かう。
「…………」
茫然と眺めた後、
「すまない、既に幾つも
当初は “取るに足らない世間知らずの馬鹿” だと、冷笑を投げた少女に詫びつつも、一昨年前の出会いを思い返す。
丁度、聖堂教会が異教徒と定めた亜人達の勢力、ディガル部族国とベルクス王国の戦争が激しくなってきた時期だ。
境界線が曖昧な王国領の南部で断行された開拓政策に加えて、自分達より
開拓民らが起こした水源の奪い合いに
その中で “神族の血を受け継ぐ聖女” と呼ばれていたアリシアも、戦時招集される運びとなり、国王の
『皆々様、宜しくお願い致します。怪我などなされたら、すぐに治療しますので遠慮なく申して下さいね』
などと、忌憚なく微笑む温室育ちの少女に頷きつつ、報酬の金貨さえ貰えれば十分と、当初は
始まりからして醜い利権絡みの戦争に大義を抱いて挑み、頑張れば頑張るほど理想との落差を知って、やせ我慢の笑顔には
統治する側に都合よく作られた教義を鵜吞みにして、悪鬼羅刹だと思い込んでいた魔族とやらは単なる亜人に過ぎず、その事実を人族の国家では捻じ曲げて利用していると、
それでも、溢れる慈愛の精神で傷ついた者達を献身的に癒し、戦場でも強固な結界魔法で皆を護る彼女は、徐々に軍内部で存在感を増していった。
無茶を
毎日飽きもせず刃を振るい、荒波の
(だから過信したのか? 実際は小娘一人、救えなかったのにな)
当然の如く、それを止めさせたアリシアの表情がいつまでも晴れないので理由を聞くと、
普通に考えた場合、多額の戦費を投じているベルクス王国は土地や資源、亜人の奴隷が手に入らなければ経済的損失を補填できないため、今更の譲歩は難しいだろう。
ただ、皆の信頼を得ている聖女なら講和を成せるのではと思い至り、“好きに振る舞っても良い、もしもの時は盾になる” と、
『… ん、最善は尽くさないと後悔するよね』
そう逡巡して答えた彼女が軍議で停戦を主張するようになってから、途端に上層部からの風当たりが冷たくなり、他の従軍司祭達にも距離を置かれてしまう。
結局、厄介者にされたアリシアは国境沿いにある都市ラズベルの教会まで呼び戻され、護衛の傭兵隊も解散となり… やる気の失せた数名が彼女の旅路に便乗した。
行き着いた先に待ち受けていたのは亜人排斥を唱える過激派の連中で、礼拝堂の外に
駆け込んだ内部では司祭達が自ら流した血溜まりに沈んでおり、中心部に辛うじて聖女の面影を残す、醜い異形の怪物がいた。
綺麗な顔の片側に生えた無数の目が不規則に
その表皮は溶解と再生を繰り返して、異臭と蒸気を絶え間なく噴き出させていた。
『な、何故…… 私が、間違って… いたのか?』
『違う、私に… 神族の血なんて、無かったから……』
悲痛さを滲ませた人外の声が響いた刹那、異形化したアリシアの脇腹を突き破って肋骨が伸び、元凶であろう大司教の頭蓋を
さらに動揺する暇も無く、
仮にも歴戦の傭兵ばかりなので、
『まだ、私の意識がある内に、殺して……』
そこから先は余り覚えていない。
気心の知れた仲間のすべてを犠牲にして、彼女の心臓に鉄剣を突き立てた俺は礼拝堂で
されども早々に答えは出ず、この惨劇が露見する前に現場を離れた上で、郊外の森へ身を隠して現在に至る。
「…… 思えば、何のために戦ってきたんだろうな、俺は」
言わずもがな、切っ掛けは金だ。それが無いと生きていけないのは、貧困層の生まれなので身に染みている。
年端もいかない頃、母と一緒に乗合馬車で
多少の罪悪感はあったようで、人混みに消える背中を追いかけて、“待って” と叫べば叫ぶほど、急ぎ足で離れていった母の姿を
その後は手を汚しながら、
「ははっ、徹頭徹尾、
だからこそ、誰かのことで命を危険に
(遺志は継がせて貰う。それが借り物であってもな、惚れた弱みだ)
今更に気づいた亡き聖女への私情を認めて、すぐに一切合切を飲み下す。
土砂降りになってきた雨空の下、俺は立ち止まっていた重い足を動かして、まだ懐かしくもない戦場を目指した。
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人物紹介 No.1
氏名:アリシア・ルクス (
種族:人族
職業:
技能:上級魔法(光)
聖焔結界
魔法耐性(全)
魔法効果増加(小)
称号:神族の血を受け継ぐ聖女
武器:祈りの錫杖
武装:聖女の正装
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