海鳥 Re-start on a voyage

五月雨

新月

繰り返す物語

赤い満月の下でお願い事をすれば叶えられるんだって。

なんで赤い満月なの?

赤い満月は魔法みたいな力を持ってるんだって

魔法じゃないの?

大人たちは”げっか”の力っていってたよ

なんでも叶えてくれるの?

叶えてはくれないよ叶えられるようになるんだ

よくわからないよ

ぼくもわからないよ、でもこれすらも今の僕らには希望になるんだ

希望になるのかな?

なるよきっと、そうじゃなきゃおかしいじゃないか

大人たちのでまかせでも?

それでも僕は、君と未来を行きたいんだ



 9月の下旬。夜になると手がかじかんて動かしにくくなる。夕方ごろから雨が降っていたが今はもう綺麗な星空が見える。

 我々の最初の任務は今夜行われる。

 今回の任務は船に乗せる人質をできるだけ怪我をさせずに速やかにさらってくる、というものだが、そもそも政府の一員である我ら海鳥船員がこんな犯罪者のようなっことをしていいのだろうか。と、国に疑問を浮かべてしまった。奴らの言う正義は国に対して純粋無垢で奉仕する、というものだというのにこのようなことを考えてしまってはすぐに処分されてしまう。

 僕は頭を振って自分の考えをくらませてから人質の住む家へ向かった。


 海鳥、それは国の保持する最大で最強の箱舟である。船であるのにもかかわらず潜水艦の役割も果たし、中には太陽の光に近い電気が通っているため果樹園や畑がある。また各部屋には隠し通路や隠し部屋、開ける時にギミックがいるような謎の扉、などといった敵対策も施されている。

 なぜここまで大切に守られているのか、というとこの船が作られた100年前までさかのぼることとなる。

 もともとはただの偵察艦であり、戦争用の船ではなかった。だが、この時から海鳥は不思議な事件が起こっていた。それは海鳥が帰還するときに人が一切いなくなる、というものだ。

 船員たちはみな実力派ぞろいで、なおかつ周りの国と戦争をしていたわけではない。船だって大きな破損をしているわけではない、むしろ出航時と同じくらいきれいなままである。それなのになぜか船員が帰ってくることは無かった。

 そのため船は出航するたびに様々な工夫が施されるようになっていった。浸水が原因にならないように潜水艦と同じように加工して、食料不足ならそれに困らないように自給自足できるようにして、侵入者が原因ならすぐに襲われないように艦内を複雑にして。こんなことを繰り返していくうちに最大で最強の船と化していた。

 ここまで危険な船なのになぜ壊さないのか、という疑問を抱いてしまうが、その原因はこの船の作者である。

 歴史書によればこの船は伝説の神官、ノアによって作られたと書かれている。ノアは我が国にとっては神のような絶対的な存在だ。そしてそのノアは我々に対してこのメッセージを残した。

—――海鳥の出航を絶やしてはならぬ。

この言葉から国は5,4年間に一度のペースで海鳥を海へ放っている。

 そんな恐ろしい船に今晩、人質の齢16の娘がさらわれ明日の朝に出航される。今回の海鳥対策として娘を乗せていざとなったら売りに出せ、というとんでもない指令が出された。こんなことは船長は許しはしないだろう。だから、きっと、船長は何かやらかす。



 星の綺麗な夜。柔らかそうな髪を持つ少女の目の前には、少年のまま時が止まったような笑顔をしたひょろっとした男が立っていた。男はおびえる少女の耳元に遊びに誘うようにこう告げた。

「僕は君の味方だ」と。


 船長から娘が逃げたと連絡を受けた。一瞬は?というなめ腐った声を出してしまったが、船長はちょっと楽しそうに「探してあげてね~」といって先に寮に戻ってしまった。

 船長のことだから何か仕掛けてくるのではないかと思ったがしっかりやらかしてくれた。ほかの船員に”力”を使って連絡をして、肌寒い夜の街を小走りで探し始めた。

どうかまともな人に見つけられますようにと祈りながら。

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