第40話 美人姉妹は殺意の原因

 日曜日になり、俺は瑠理と香織さん(栗原専務)と一緒に秋葉原を散策した。

 ネッ友がメイド喫茶で働いているそうで、彼女と会うためだ。

 ようやくそのメイド喫茶にたどり着いたが、到着早々、瑠理は嫌がる香織さんを連れてどこかへ消えてしまった。


 目当てのネッ友にはすぐ会えた。

 ゲーム中に見せた天然ボケ発言で予想はしてたが、やはり天然不思議系少女だった。

 歳はたぶん俺と同じくらい。

 高校生がメイドのアルバイトをしてるんだろう。

 雰囲気は幼い感じだが、瑠理とは違う幼さでフワフワしている。

 予想外だったのは、かなり可愛いということ。

 超美人の菜乃と付き合ってなければ、仲のいいネッ友が美少女であることに衝撃を受けて、一気に魂を持ってかれただろう。


「ビレッジさん、どうしたのニャン?」


 困り顔の俺をネッ友が気遣う。

 猫がコンセプトの店らしく、猫メイドのネッ友は猫耳をつけたカラフル衣装だ。

 短いスカートとニーハイソックスの間からのぞく、ふとももの絶対領域がまぶしい。


 ちなみに彼女が呼んだビレッジという名は、俺のゲーム用ハンドル名だ。


「ねえ、一緒に来たマロンとそのお姉さんがいたでしょ? 彼女らはどこ行ったの?」

「それはもうすぐ明らかになるニャン。きっとびっくりするニャン」


 顔の横で手をひらひらと振った彼女は、そのまま店奥のステージへあがった。

 店内照明が弱くなり、ステージが照らされる。


『ハーイ、ステージが始まる時間ニャン!』


 ネッ友が店全体だけでなく、俺にも思いっきり手を振ってから元気に歌い始めた。


 彼女はアニメ曲を歌いながら手を振り、身体の向きを交互に連続スイッチ、左右の動きで上下にスカートを揺らす圧巻のパフォーマンスを見せる。

 ダンスのレベルが高い!

 ゲーム中に見せるフワフワした印象はなく、ダンスがキレッキレでノリノリだ!


「ワァァアアアアーー!! いいぞーー!!」


 常連たちが、歌の合間に声援をあげる!

 最前列の奴と一緒にサイリウムを振るのは、同調圧力に弱い俺でもさすがにできない。

 だがこの歌は知ってるので、ノリに合わせて声を出して彼女を応援した。


『じゃあ、ちょきの時間だニャン。ちょきをご注文のご主人様は並んでニャン』


 彼女のファンたちが、ネッ友とインスタント写真のちょきを撮るために行儀よく並んだ。


 凄いなぁ彼女……。

 飲食店で自分のファンがいるって凄いことだ。

 みんな、彼女目当てで通ってるんだもんな。

 サービスも丁寧で、本当にファンを大切にしてる。

 俺にも少しだが、お気に入り登録者がいる。

 ファンをちゃんと楽しませないといけないな。


 ファンとのふれあいを終えたネッ友が、俺の元へ来る。


「どうだったニャン?」

「びっくりした。最高のパフォーマンスだった!」


「ありがとニャン。あ、準備できたみたい。ビレッジさん、ちょっと待っててニャン」


 そう言って彼女が店の奥に消えたあと……。


「はーい、ご主人様! お帰りなさいませニャンっ」

「ご、ご主人様。お帰りなさいませ……に、にゃん」


 入店時のあいさつを今頃されて顔を上げると、とびきり可愛いメイドがふたり、目の前にいた。


 元気な声は、背の低い黒髪の美少女猫メイド。

 その横で恥ずかしそうにあいさつするのは、背の高い黒髪の美女猫メイド。


「瑠理! 香織さん!」


 あまりに驚いてうっかり名前を呼ぶと、瑠理が口に人差し指を当ててウインクした。


「ご主人様! 私はマロンだニャン」

「わ、私はカオリンです……にゃん」


 黒髪ロングの栗原姉妹が猫メイドとかッ!!

 か、かかかか、神か!!

 最高の可愛らしさと最高の美しさで、互いを補完。

 ふたりの組み合わせはまさしく完璧!

 後ろでネッ友が、彼女たちに給仕の仕方を説明している。


 瑠理たちの登場で店内がざわつく。

 さっきのファンたちがネッ友を呼んだ。


「ねえ! か、彼女たちは!?」

「もももももも、もしかして新人!?」

「彼女たちとも、ちょきって撮れるの??」


「あー! さっきまで私ひと筋って言ってたのに、ひどいご主人様だニャン。彼女たちは、あちらのご主人様と帰ってこられた大切なお嬢様ニャン。今はあちらのご主人様へお給仕体験中なのニャン」


 お給仕体験??

 なんだそれ??


 急いでメニュー表を確認する俺。

 どうやら客として来店した女性が、衣装を着てメイド体験をできるらしい。

 食事やジュースまでがついたセットコースだった。


「そ、そんなぁ。お店のメイドじゃないのか~」

「ひひひひひひ、久しぶりに凄い娘たちなのに」

「フンッ! う、羨ましくなんか……うぐぅぅ」


 す、すまん、おまいら……。

 なんかもう、ホントにすまん!

 ネッ友よ。

 悪いが、せめて彼らを癒してあげてくれ。


 俺の思いをよそに栗原姉妹はかなり楽しそうだ。


「じゃあ、ご主人様。失礼するニャン」

「ご、ご一緒するのを許して……にゃん」


 瑠理と香織さんが俺の両隣に座った。

 それからは、幼い美少女猫メイドの瑠理と、色っぽい美女猫メイドの香織さんからお食事接待を交互に受ける。

 俺はこの世の極楽を味わいながら、離れた所から殺意を感じるという、貴重な体験をしたのだった。



「健ちゃん、今日はとっても楽しかったね!」

「私も仕事に役立つ、貴重な体験ができました」


 メイド喫茶でのひとときを終え、栗原姉妹と電気街口改札へ戻って来た。


 瑠理も香織さんも喜んでくれてなによりだ。

 それに俺もこんな美人姉妹と秋葉原で遊ぶのは最高に楽しい。

 と同時に周囲からの殺意をこれでもかと感じた。

 美女といるときは、他人への気遣いが特に必要なのだ。

 まあ、視線の遠慮がない秋葉原ならではかもだが。


「このちょきは健ちゃんが持っててね。今日の思い出と友情の証だよ!」


 瑠理がメイド喫茶で撮った、4人で写るちょきを渡してくれた。


「いいのか?」

「ちょきの写真を撮ったから。ね、お姉ちゃん?」

「中心で写る中村さんが持っててください」


 ちょきには俺を中心に、猫メイド姿の瑠理と香織さんとネッ友が写っている。

 俺はちょきを失くさないよう、大切に財布へしまった。


 別れる間際、香織さんは専務の顔に戻る。


「中村さん、瑠理。さっき聞いた、姫川さんと3人でコラボをする件、OKよ」

「香織さ……栗原専務、ありがとうございます!」

「お姉ちゃんありがと。じゃあ健ちゃん、明日、姫ちゃんと相談しようね!」


 メイド喫茶でコラボを相談したときは「そうねえ」と思案顔だった栗原専務が笑みを浮かべている。


「自分たちで企画して、思いっきり視聴者を楽しませてね。企画が決まったら瑠理に聞く……にゃん!」


 栗原専務は恥ずかしそうに猫メイドのポーズでふざけると、瑠理と仲良く手をつないで帰って行った。

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