第23話 幼馴染の敵意は女性へ2
Vtuber関係で、菜乃、瑠理、栗原専務に俺の家へ来てもらった。
だがなぜか、俺の家でカレンが待ち構えていた。
カレンは俺が女性ばかり連れてきたと不満を言い、みんなに失礼な態度をとる。
俺が「帰ってくれ」と言っても聞きやしない。
話の通じないカレンに困り果てたところで、瑠理が俺の前へ出たのだった。
「カレンちゃん! ちょっと酷くない? 私は健ちゃんのパソコンを設定しに来ただけなんだよ?」
「とって付けた理由だけどさー、栗原が健太のこと狙ってんの前からバレてんだよ! 私がいないと積極的に話しかけるらしいね?」
瑠理が俺を狙ってる?
まさか!
彼女は正当な主張をしただけだ。
それなのに、なぜか押し黙った。
確かにカレンがいないと瑠理はよく話しかけてくるが、別に悪いことじゃないだろ。
なんで彼女は反論しないんだ?
次は、菜乃が俺の前へ出る。
「美崎さん! 三浦さんと前田さんはどうしたのよ? 彼氏がいるなら、別に中村さんが誰といようが関係ないでしょう!」
「あいつらとはもう別れたわ。だいたい、ひ、姫川だって、健太に告白してフラれたんでしょ? 1回くらい一緒に帰っただけで彼女ヅラしないでくれる?」
菜乃は口をパクパクさせたが何も言わなかった。
彼女は俺にちゃんと告白してくれたし、俺はそれを受けて付き合うと返事したんだ。
菜乃は正真正銘、俺の彼女なんだ。
だがこの場では、栗原専務以外に秘密事項。
言いたくても言えないだけだ!
それより、カレンは自分の都合だけで男を変えて不誠実なのに、なんで開き直れるのか!
さらには、親戚の真利までが俺の前へ出た。
脚が少し震えている。
「カ、カレンさん、ちょっと健太にいへの態度が酷いです。幼馴染みなら、も、もうちょっと大切にするべきですよ!」
「はあ? ガキはだまってなよ! ってかさぁ、幼馴染みの問題に部外者が首突っ込むなよー。あんたのことだよ、居候! 聞いてる?」
真利は勇気を出して意見したが、カレンに強い口調で言い返されて俺の後ろへ隠れた。
カレンの態度は、年下への優しさがかけらもない、酷いものだった。
もう十分だ。
黙って力ずくでカレンを追い出そう。
そう思ったときだった。
栗原専務が前に出たのだ。
「これから仕事の話をします。中村さんの話を聞く限り、あなたは部外者です」
「はあ? 仕事? そのカワイイなんちゃらが、まともな仕事な訳ないでしょー?」
「今からする話は仕事に関する機密事項です。あなたの前では仕事の話ができない。お引き取りください」
「仕事仕事って、私だってバイトで稼いでるつーの。たぶんあんたよりよっぽど高給だしー」
「確かに私の年収は、後ろの彼女たち2人分より多少多いくらいです。でも、あなたの収入もたいしたことないでしょう?」
「ハッ。私なんかちょっとデートするだけで、その辺のオヤジより高給取りなんだよ。大した稼ぎもないOLのあんたが、仕事を語ってんじゃねーし」
カレンの奴、そんな怪しいバイトしてんのか……。
それにしても栗原専務、経営者なだけあるな。
中身のないカレンの話を、自分の土俵であるお金の話に仕向けてる。
「それでもあなたの年収よりは多いと思いますが」
「あのねー。こっちは女子高生。私は日給で話してんの。最高日給なら私の方が絶対上だわ。あんたの日給いくらよ?」
「私は年俸制です。分かりました。出勤日で年収を割った平均日給で、あなたの最高日給と比較しましょう。私の方が多かったら、今日はお引き取りください」
「馬鹿だねー。OLの平均日給なんてゴミだし。いいよ、受けてやる」
「中村さん、彼女の最高日給が私の平均日給より少なければ、帰るそうです」
「聞いてました」
栗原専務がみんなに聞こえるように、俺へ勝負内容を確認した。
カレンの方は勝ちを確信しているのか、みんなに向かって偉そうに胸を張る。
「聞いて驚きなよー。今までで私の最高日給はなんと5万円だ!! 身体売らずに5万だよ! 凄いでしょー」
黙って聞いていたみんながざわつく。
日給5万円!!
確かに凄い!
これがカレン増長の原因の一つだな?
カレンの奴、そんなに稼いでるのに俺に食事を奢らせてたのかよ!
そりゃ、どうりで勝つ自信がある訳だ。
相手が普通のOLだと年収300万円くらい?
出勤日が年250日だとして……日給1.2万円。
普通なら絶対に勝てる、カレンはそう考えたな?
「ほらほらー、どうしたのぉ? びびったぁ?」
カレンの挑発を受けても、栗原専務は表情をまったく変えない。
だが、その顔を見た妹の瑠理はおびえていた。
そして無表情のまま栗原専務は答える。
「私の平均日給は10万円です」
じゅ、10万円だとぉぉおおおおーー!!!!
カレンの2倍!
しかも平均だからそれが毎日……。
それってつまり出勤日が250日だとして……。
「あんた、何見栄張ってんの!? 10万円って馬鹿なの? 年収2500万円ってことだよ?」
栗原専務が無表情でカレンに名刺を渡した。
「会社の前年度売上は100億円を超えました」
「え? ええ!? 専務取締役!!??」
「ウチのお姉ちゃんは会社のナンバー2だよ」
「瑠理。仕事のときは専務と呼びなさい」
ナンバー2……専務って社長の次ってこと?
年収2500万円ってマジなやつだ……。
名刺を見たカレンが完全に固まってる。
「う、うそ……マジ?」
「さあ、私の勝ちです。お引き取りください」
「へ、へぇ……マジっぽいね。ってことは今からする仕事の話って美味しい話なのね?」
「お答えできません。お引き取り下さい」
「あ、あのさー。さ、さっきのこと謝るね。だから、私もその仕事の話にまぜて欲しーなーって?」
「お引き取りください」
「いや、マジ謝るからさー。ね? お願い! 栗原のおねーさん!」
「お引き取りください」
手の平を返して取り入ろうとするカレンに対して、栗原専務は無表情で同じ言葉を繰り返した。
「ちっ! こっちが下に出てやってんのに――」
「いい加減にしなさいッ! もう30分経ってます! 私たち3人を合わせて時給換算すると3万円を超えます。これ以上は損害を請求しますよ?」
3人で時給3万円。
それを聞いたカレンは口を閉じると、栗原専務と後ろの菜乃、瑠理を眺めてワナワナと唇を震わせた。
「あの可愛いカレンちゃんが……。いつの間にか、こんな子に育っていたなんて……」
ダメ押しで母さんが悲しそうにつぶやき、彼女を見て深くため息をついた。
カレンはそのまま黙って部屋を出て行った。
俺は彼女を追いかけなかった。
すぐ後に、玄関ドアの閉まる音が聞こえた。
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