23 幼馴染は可愛い



「よっ、よく考えたら海里って私としたキスが初めてって言ってた! ほかの子とした事ないって……! ヒドい! じゃあ私と同じじゃん! 何で先輩ぶってんの?」



 柚佳には今しがたまで『誠意』を見せてもらっていた。簡単に説明すると、キスの主導権を柚佳に任せて彼女の思う通りにさせていた。


 彼女はもちろんオレをイチコロにするつもりで臨んだんだと思う。けれど動きはギクシャクぎこちないし恥ずかしいのかいちいち戸惑っている様子で、予想に違わずポンコツだった。


 そんな奴にオレは……。


 思い出して頭を押さえたくなる。


 まだ全然慣れていない彼女の反応が堪らなくオレに刺さって、派生する不埒な感情を気取られないように必死だった。当初は相手を侮って余裕ぶっていたけど。気が付いたら彼女を手に入れたくて夢中になっていた。


 ……あれ? これってイチコロにされてる?





 一頻り終わってから先の彼女の発言を受け、オレなりに答えた。



「ははっ。お前に余裕がないだけだろ?」


「くっ……! 今にぎゃふんと言わせてやるんだから!」



 今のままで十分ぎゃふんと思ってるのは表に出さず、余裕ぶって微笑んだ。


「できるもんならやってみろよ。返り討ちにしてやる」



 あっ! しまった。つい売り言葉に買い言葉で煽ってしまった。









 理性の糸が張り詰めているのに二回戦が始まってしまった。


 もうそろそろ限界だ……!


 余裕が遂に底を突きそうだったその時、陽介が帰って来てくれた。この時ばかりは弟が救いの神のように見えた。









 色々舞い上がっていて忘れてたけど、オレたちって今付き合ってるのかな? 柚佳に告白の返事をしそびれた。それと、大事な案件を聞いていない。柚佳と篤の関係についてだ。本当にポンコツなのはオレの方だ。











 テストも近いので深夜勉強をしている。家族が起きている時間は話し声やテレビの音で集中できないから、彼らが寝静まった後でないと捗らない。



 でも今日は柚佳の事で頭がいっぱいで何にも手が付かなかった。





「はぁ……」


 溜め息をついてシャーペンを置く。これが恋煩いっていうものかもしれない。厄介だ。


 だけど彼女がオレの気持ちを受け入れてくれた事を考えると得も言われぬ嬉しさに満たされる。



 暫く机に突っ伏していた。













 次の日は曇りだった。小学校前のバス停に柚佳がいた。



「……あ」


 彼女もオレに気付いて、少し戸惑ったように視線を逸らした。



「おはよう」


「はよっ」



 隣に並んでバスを待つ。俯いている彼女をこっそり横目に窺っていた。


 ふと柚佳と視線が合った。彼女は驚いたように少し目を見開いたけど何も言わず、また車道の方へと顔を逸らした。



 幼馴染が今日も安定に可愛い。


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