21 擦れ違い
放課後になるまで柚佳と話をする機会を作れなかった。真っ先に教室を出て行く彼女を追いかけた。
ちょうど隣のクラスの生徒らがわらわら廊下へ出て来たので阻まれて彼女との距離が開く。
追いついたのはバス停へ下る坂の途中だった。四、五メートル離れた先を歩く後ろ姿へ呼びかける。
「柚佳っ、オレっ、花山さんとは何もないから! オレは柚佳が……!」
「分かってる!」
全部言い切る前に大きめの声で遮られた。
「分かって、る……?」
息を整えながら彼女の言葉を口の中で繰り返す。
バスは通るけど、さして広くもない道路。一段高く造られた歩道の端には白い手すりが続いていて、その外側は雑草の生い茂る斜面になっている。薄の揺れるその先には民家の屋根や遠くの山並みが広がっている。
両手で鞄を持った彼女は振り向いて微笑んだ。悲しいのを無理に笑っているみたいな表情で、オレは胸に痛みを覚えた。
「ごめんね。私、本当は知ってたんだ」
彼女の言葉に何故か不安が過る。ドクンドクンと脈が響くのを感じる。渇いた唇でやっと声を紡いだ。
「何を?」
オレを見ていた彼女は再び微笑んだ。
「海里が美南ちゃんを好きな事。二人が両想いだった事」
背筋が薄ら寒い。柚佳は一体何を言ってるんだ?
「ゆ……」
「あっ、バス来たよ! 急ごう!」
柚佳のとんでもない勘違いが何で起こったのか問おうと口を開いたけど、タイミング悪く坂の上からバスが来た。二人バス停へと走り、間に合って乗った。
車中、お互いに何も話さなかった。窓側に座った柚佳はずっと外を眺めていた。
いつもの小学校前のバス停で降りた。乗る時と違って広い道路を隔てた反対側のバス停だ。
話をするのを拒むように早足に先を行く背を睨んでいる。数メートル後をつかず離れず歩きながら。憤っていた。
柚佳が何であんな勘違いをしていたのか知らないけど、少しはオレの言葉を信じてくれたっていいじゃないか。
考えていたら、また沸々と怒りが湧く。
細い道を抜けて車も通れる幅の道に出る。少し進むとオレたちの住んでいるアパートが見えてきた。
アパートの隣にある空き地の前で柚佳の左手を掴んだ。振り向こうとする彼女を引き寄せて、その耳に囁いた。
「今日も練習、するよね?」
近付けていた顔を離してその表情を読む。見開かれた目が惑うようにオレの視線から逃げている。俯き頬を赤らめて幼馴染は言い淀む。
「え? ……っと……」
煮え切らない様子だったけど、返事は待たずにその手を引く。
怒りに任せた足取りでアパートの階段を上る。ドアの鍵を開ける。その間中ずっと手は繋いだままだ。
玄関に引き込んで鍵を締めた。
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