5 美醜


 公園に着く頃には空からすっかり赤みが消えて、残った濃い青もいつの間にか黒へ変化している。


 星の瞬きを見上げながら考えていた。オレは柚佳とこれからもずっと一緒にいたい。できれば一生を共にするパートナーとして。でも柚佳は……?

 オレと同じように思っていてくれたのなら問題はないだろう。しかし彼女は篤を振り向かせたいと言った。柚佳の気持ちが篤にあるのなら、オレはただの邪魔者でしかない。……告白したら、少しはオレの事を見てくれるかな?


 小ぢんまりとした公園には滑り台とブランコ、鉄棒があった。もう暗くなったので誰もいない。オレたちは年季の入った石造りのベンチに腰を下ろした。街灯があるので夜でも不自由しないくらい明るい。



「それで、話って何?」


 首を傾けた柚佳に問われた。小さな動きが一々可愛くて「それ、わざとやってるの?」と思ってしまうくらいオレの頭は彼女で支配されていた。



「あの……さ」


 一瞬躊躇したものの、自分の気持ちを伝える事にした。


 左隣でオレの顔を見つめている大切な幼馴染。告白すればこの関係は壊れるかもしれない。でも、ちゃんと言わないと。……この気持ちを知ってほしい。



「ちゃんと言わなきゃって思って。柚佳にずっと言えなかった事があって。オレさ……」


「私も。海里に言わなきゃいけない事があるの。私……」



 『柚佳の事が好きだ』と言葉にする直前、相手が急いた口調で何かを伝えようとしてきた。その瞳が潤んでいる。オレの左袖を掴んで再び口を開きかけたけど、ためらうように視線を彷徨わせ俯いてしまった。



「柚佳……?」


 表情が悲しげに見え心配になった。何かあったのか尋ねようとした時。か細く絞り出すような声で告げられた。



「私、今日の昼休みに桜場君に告白されたの」


「……え?」



 すぐにはその内容を理解できなかった。彼女は俯いたまま黙っている。



「でもさっきオレの家で、もうすぐ告白する予定とかアイツを振り向かせたいって言ってたよな?」


「告白されたけど、まだ私の気持ちを伝えてないの。桜場君には待っててもらってる。十日後に会う約束をしてて、その時に言おうと思ってる」



 頭の中が真っ白になったように、彼女の話が理解できない。いや、理解したくなかった。



「振り向かせたいのは……」


 そこで言葉を切って、彼女はフフッと笑った。



「私が本命なのか、そうじゃないのか分からないから。私より可愛い子なんてたくさんいるし。本当に好きかなんて分からない。だから言ったの。他の子を切ってでも私を選んでくれるのか。私は、好きな人にとってただ一人の人になりたい」



 顔を上げていた柚佳と視線が合った。間近で見た幼馴染の顔はハッとする程美しかった。


 美人という訳でもなく……ごく普通の化粧もしていない飾り気のない彼女の、意志を宿した瞳。少し笑った形のよい唇。女の子は恋をすると綺麗になるっていつかどこかで聞いたけど、きっとこういう事だと腑に落ちた。



「だから彼が、私以外を考えられなくなるようにしたい」



 柚佳が両手でオレの頭を押さえた。何がしたいのか理解したオレは、その手に導かれるまま距離を縮めた。触れる前に彼女は言った。



「あと九日の内に、全部教えて」



 憎いので、咬み付くように奪った。


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